研究課題/領域番号 |
20K06534
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
大保 貴嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90207267)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | P型ATPase / Caポンプ / リン酸化中間体 / エネルギー共役 / フリッパーゼ / ポリアミン / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
P型ATPaseのCaポンプはATP加水分解に共役したCa輸送を行い、その輸送サイクルはリン酸化中間体(EP)の形成、異性化、加水分解を経由する。このEPの異性化(E1PCa2 → E2P + 2Ca2+)において細胞質領域の構造変化が膜ドメインの輸送部位に伝わり、E1PCa2の輸送部位に閉塞されていたCa2+が内腔へ放出される。膜貫通領域から細胞質に長く伸びたヘリックスM2はAドメインに繋がっている。M2の膜界面領域にあるGly105をAla 置換すると、EP異性化、およびエネルギー共役(Ca2+輸送/ATP加水分解)が阻害されるので、この領域の柔軟性がM2の機能に重要であると考えた。本研究ではエネルギー共役におけるM2膜貫通領域(M2m)の役割を調べるため、G105AとM2mのGly置換のダブル変異を構築し、機能解析を行った。その結果、G105A/V93GのみG105Aの脱共役から救済された。E1PとE2Pの各アナログの原子構造によると、V93はCa2E1PでM6のL793やW794と相互作用し、EP異性化/Ca放出後のE2Pでその相互作用が切断されていることから、エネルギー共役にはこの相互作用切断が重要であると結論した。 フリッパーゼは脂質を膜の内側から外側の層へ輸送するP型ATPaseであり、その類似酵素として、ポリアミン輸送ATPaseのATP13Aがある。しかし、輸送基質であるポリアミンの認識機構や輸送サイクルに関する理解は不明であった。そこで本研究では、クライオ電子顕微鏡による構造解析によって、ATP13A2の複数状態の構造を明らかにし、輸送に必須なアミノ酸残基の置換変異体の機能的解析をすることで、その独自な基質認識機構や輸送機構を明らかにした。ATP13A2の遺伝的変異はパーキンソン病に関連しており、この成果はこの疾患の理解に繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Caポンプのエネルギー共役におけるM2mの機能的役割を部位特異的変異により調べ、細胞質ドメインの動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に重要であることを示した。フリッパーゼの類似酵素であるポリアミンを輸送するP型ATPアーゼATP13A2の輸送反応の様々な中間体の立体構造を決定し、また変異導入と機能解析から、その輸送メカニズムを詳細に解明することに成功した。本研究成果は2021年米国科学雑誌 Mol.Cellに出版された。フリッパーゼの脂質輸送過程に及ぼす部位特異的変異と構造解析についての研究が現在進行中であり、脂質輸送の鍵となるE2P分解過程の構造と部位特異的変異の効果が矛盾なく一致する結果を得ている。以上のように着実に成果を出すことに成功していることが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はCa、脂質などを輸送するP型ATPaseの物質輸送メカニズムの解明である。CaポンプM2膜貫通部分M2mの部位特異的変異の効果について得られた結果を基にして、さらにM2周辺構造への変異も調べる。これより細胞質ドメインの大きな動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に及ぼす影響について調べ、M2のエネルギー共役における役割を解明する。ポリアミンを輸送するP型ATPアーゼATP13Aの輸送反応の様々な中間体の立体構造を基にしてその輸送メカニズムを解明する。特に、N末端領域(Ntd)の機能的役割については殆ど明らかにされていない。そこで、Ntdへの部位特異的変異を構築してその機能解析からこのメカニズムに迫る。フリッパーゼの脂質輸送過程に及ぼす部位特異的変異と構造解析についての研究が現在進行中であり、これを発展させる。脂質輸送の鍵となるE2P分解過程の構造と部位特異的変異の効果について機能解析を行い、得られた結果を基にして、さらにM2周辺構造への変異も調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Caポンプのリン酸化中間体アナログの原子構造解明のため、安定化、精製条件の確立、クライオ電顕による構造解析用試料の検討、作成を、出張して共同研究で進める予定であった。しかし、COVID-19のため出張しての共同研究などができなくなったため実施できなかった。令和4年度に予定していた残りの研究、出張については、研究期間を延長して令和5年度に行い、使用額を使用する予定である。
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備考 |
フリッパーゼに類似したP型ATPaseのSpf1p P5A-ATPaseの構造と機能の研究。Caポンプとのドメイン相互作用の比較。
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