研究課題/領域番号 |
20K06535
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
水野 広一 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (30321821)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 調節性分泌 / インスリン分泌 / 開口放出 / 分泌顆粒 / ドッキング / プライミング / 生細胞観察 |
研究実績の概要 |
マウス膵β細胞株MIN6細胞から作成した普遍型Munc13bノックアウト細胞株は、Munc13aノックアウト細胞株がグルコース刺激に対するインスリン分泌能を持つのとは異なり、インスリン分泌応答を消失しており、Munc13bを入戻すことで回復した。この分泌応答の回復は、細胞膜近傍に予め存在したインスリン顆粒の開口放出が回復することに起因していた。以上の結果は、ノックダウン実験の結果と一致しており、Munc13bがインスリン顆粒の開口放出制御に関わる主なMunc13であることが判った。また、開口放出に伴うMunc13bの動態解析から、細胞膜に係留された顆粒が開口放出する際、開口放出直前にMunc13bが顆粒近傍に集積することを明らかにした。加えて、予め細胞膜近傍に存在したインスリン顆粒の開口放出のうち半数を占めるグラニュフィリン陽性顆粒の開口放出が、Munc13bノックダウンにより消失することを見出した。以上の結果は、グラニュフィリンを含むタンパク質複合体により分子的に細胞膜に係留されたインスリン顆粒の開口放出を普遍型Munc13bが選択的に制御することを示している。 インスリン顆粒の開口放出は、開口放出前の顆粒挙動の違いから3種類に部類される。本研究から、開口放出様式ごとに異なる制御タンパク質が存在する可能性が示唆された。また、開口放出に伴うMunc13b集積が開口放出直前に起きることから、Munc13bによる開口放出確立を上昇させるプライミング過程が、開口放出直前に起きる可能性を示している。この知見は、神経細胞を用いた研究から提唱されている、プライミング過程は分泌刺激より前に起きる、という説とは異なっている。 本研究結果は、インスリン顆粒の開口放出過程における細胞膜ドッキングとプライミングの分子レベルの関係の一端を明らかにしたもので、今後の糖尿病薬開発の一助になる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Crispr/Cas9法によりマウス膵β細胞株MIN6細胞から作成したMunc13aおよびMunc13bノックアウト細胞株のグルコース刺激に対するインスリン分泌能を検討し、Munc13aノックアウト細胞株がグルコース刺激によりインスリン分泌する一方、Munc13bノックアウト細胞株にはインスリン分泌応答が見られず、Munc13bを発現させることで分泌応答が回復した。開口放出の直接観察から、Munc13bノックアウト細胞には予め細胞膜近傍に存在した顆粒の開口放出が見られず、Munc13bを入戻すことで回復することも明らかになった。Munc13bノックアウト細胞に蛍光標識Munc13bを発現させ、これを用いて予め細胞膜近傍に存在したインスリン顆粒の開口放出に伴うMunc13bの動態観察を行なった。結果、半数の開口放出でで開口放出直前にMunc13bが顆粒近傍に集積する様子が観察された。さらに、開口放出前の顆粒運動をMunc13b集積の有無に基づき比較したところ、Munc13b集積後に開口放出した顆粒の運動には制限がかかっており、Munc13bが細胞膜に分子的に係留された顆粒の開口放出を制御している可能性が示唆された。加えて、インスリン顆粒の主要なドッキング因子であるグラニュフィリンを標識した膵β細胞株の開口放出を観察したところ、予め細胞膜近傍に存在した顆粒の開口放出のうち半数がグラニュフィリン陽性顆粒の開口放出であり、このグラニュフィリン陽性顆粒の開口放出がMunc13b発現抑制により消失した。以上の結果は、グラニュフィリンを含むドッキング複合体により細胞膜に係留されたインスリン顆粒の開口放出をMunc13bが選択的に制御することを示唆している。 以上の研究成果を論文にまとめ学会誌に投稿、受理された。これらの状況から、概ね計画は順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究で、膵β細胞には、Munc13aと普遍型Munc13bが発現していることを見出した。両者のアミノ酸配列は、非常に似ており、共にN末端側から順番にC2A、C1、C2B、Munc13 homology domain (MHD)1、MHD2とC2Cの6個のドメイン構造を同じ配列で持っている。しかし、Munc13bの機能喪失によってのみドッキング顆粒の開口放出が大きく障害され、Munc13aの機能喪失や過剰発現はドッキング顆粒の開口放出に影響を与えない。そこでMunc13bタンパク質中のドッキング顆粒の開口放出制御に関わる責任領域を明らかにすることを目的に、各ドメイン構造直後にMunc13aとMunc13bが入替わるキメラMunc13発現組換えアデノウイルスを計10種類作成した。これらをMunc13bノックアウト膵β細胞株に入戻し、①グルコース刺激に対するインスリン分泌応答の回復と②インスリン顆粒開口放出に伴うMunc13bの顆粒上への集積、以上の2つの指標を用いて、Munc13bのドッキング顆粒の開口放出制御に関わる領域の解明を目指す。 開口放出直前にMunc13bがドッキング顆粒近傍に集積することを見出したが、この分子機構は不明である。Munc13bのドッキング顆粒への局在機構を明らかにすることを目的にMunc13b-Venus発現MIN6細胞溶解液から抗GFP-Nanobodyを用いた免疫沈降法によりMunc13b結合タンパク質の探索を行い、約120kDaのMunc13b結合タンパク質の候補を見出した。そこで、この候補タンパク質の発現抑制によるMunc13bのドッキング顆粒局在への影響を検討する。併せて、候補タンパク質の細胞内局在や、候補タンパク質とインスリン分泌やドッキング顆粒の開口放出との関係についても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Munc13ノックアウト細胞を使った実験を優先したため、Munc13結合タンパク質の機能解析が遅れており、これに要する費用を次年度に繰り越した。繰越金は、Munc13結合タンパク質の機能解析のために必要な試薬の購入等に充てる予定。
|