インスリンは、開口放出により膵β細胞から細胞外に分泌される。インスリン顆粒は、その輸送制御を担う低分子量GTPase Rab27aとそのエフェクタータンパク質グラニュフィリン、膜融合を担うシンタキシンやMunc18の4者からなるタンパク質複合体により細胞膜にドッキングしている。本研究は、シンタキシンの立体構造変化を引き起こすプライミング因子Munc13に着目し、開口放出における細胞膜ドッキングとプライミングの関係を明らかにすることを目的に行った。 膵β細胞には、Munc13aと普遍型Munc13bの2種のMunc13が発現していたが、Munc13bの機能喪失によってのみドッキング顆粒の開口放出が特異的に障害され、Munc13aの機能喪失や過剰発現はこれに影響を与えなかった。開口放出に伴うMunc13bの動態を全反射顕微鏡下に直接観察したところ、細胞膜近傍に予め存在し、顆粒運動が著しく制限されたドッキング顆粒が開口放出する直前に、Munc13bが一過性に集積することが明らかになった。このことはドッキング顆粒に対するプライミングが、開口放出直前に起きることを示している。この知見は、神経細胞を用いた研究から提唱されている“プライミング過程は分泌刺激より前に起きる”という説とは異なっている。 Munc13aと普遍型Munc13bのアミノ酸配列は、非常に似ており、共にN末端側からC2A、C1、C2B、DUF1041、MHDとC2Cの6個のドメイン構造を同じ配列で持っている。そこでMunc13aとMunc13bのキメラMunc13をMunc13bノックアウト膵β細胞株に入戻し、グルコース刺激に対するインスリン分泌応答の回復を指標に、Munc13bのドッキング顆粒の開口放出制御に関わる領域の解明を行い、MHDがその責任領域であることを明らかにした。
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