研究課題/領域番号 |
20K06537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
若杉 桂輔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20322167)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 蛋白質 / アミノアシルtRNA合成酵素 / 生体分子 / 機能 / 制御機構 / トリプトファン / 免疫寛容 |
研究実績の概要 |
アミノアシルtRNA合成酵素は、tRNAにアミノ酸を結合させるアミノアシル化反応を触媒する酵素である。我々は、これまでに、ヒトのチロシルtRNA合成酵素(TyrRS)がこの触媒機能に加え、細胞外に分泌された後、サイトカインや血管新生促進因子として働くこと、また、トリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)が血管新生抑制因子として働くことを初めて明らかにした。さらに、最近、ヒトTrpRSがインターフェロン-γ(IFN-γ)に応答して発現量が著しく増加し、細胞内から細胞外に分泌され、免疫寛容に関わる細胞外から細胞内へのトリプトファン(Trp)の輸送に関わることを発見した。 癌細胞では、Trpを代謝する酵素であるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO1)が高発現しており、また、細胞外から細胞内へTrpに対する高い親和性と高い選択性を有する高感度なTrp輸送が起こり、癌周辺のTrpを枯渇させることでT細胞の増殖を抑え免疫寛容が生じることが明らかになっている。本研究では、Trp代謝酵素であるIDO1やトリプトファン 2,3-ジオキシダーゼ(TDO2)に着目し、TrpRS蛋白質を介する高感度Trp取り込み分子機構のさらなる解明を目指した。我々は、TrpRS蛋白質を細胞外の培地に添加した際のTrp取り込みを解析することにより、TrpRS蛋白質が高感度Trp取り込みに直接関与していることを明らかにした。さらに、Trp代謝酵素であるIDO1やTDO2によるTrp代謝活性により誘導される細胞内のTrp欠乏状態が、細胞外TrpRS蛋白質によるTrp高感度取り込みを著しく促進させることを明らかにした。今後、Trp欠乏状態により発現量が増加し細胞膜上でTrpRSと相互作用する分子の特定に挑み、TrpRSを介した細胞外から細胞内への高感度Trp取り込み機構の解明を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず、精製したTrpRS蛋白質を細胞外に添加した後にTrp取り込みを解析することにより、TrpRS蛋白質が高感度Trp取り込みに直接関与していることを明らかにした。次に、IDO1を過剰発現させた細胞の培地に、TrpRS蛋白質を外部添加したところ、IDO1過剰発現のみやTrpRS蛋白質添加のみの細胞と比較して、著しいTrp高感度取り込みの増加が誘導されることを発見した。他方、IDO1のヘム結合に重要な346番目のヒスチジン残基をアラニンに置換し、Trp代謝活性を失ったH346A IDO1変異体の過剰発現ではこのような相乗効果は確認されなかった。また、別のTrp代謝酵素であるTDO2の過剰発現細胞へのTrpRS蛋白質の外部添加の場合にも、TrpRS蛋白質添加のみやTDO2過剰発現のみの細胞と比べ、高感度Trp取り込みの顕著な増加がみられた。さらに、人工的にTrpを枯渇させた環境で細胞を培養した場合にも、TrpRS蛋白質の外部添加によるTrp高感度取り込みが顕著に増加することを明らかにした。以上の結果より、Trp代謝酵素の酵素活性により誘導される細胞内のTrp欠乏状態が、細胞外TrpRS蛋白質によるTrp高感度取り込みの促進に関与することが明らかになった。以上の研究成果を、令和2年11月にGenes (Basel)誌上で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1. ヒトTrpRSと相互作用する分子の探索 Trp欠乏状態により発現量が増加し細胞膜上でTrpRSと相互作用する分子の特定を目指す。相互作用分子を特定した後、そのsiRNAによって相互作用分子を特異的に欠失させ相互作用の重要性について検討する。さらに、それらの結果をもとに、TrpRSを介した細胞外から細胞内への高感度Trp取り込み機構の解明に挑む。
2. ヒトTrpRSの翻訳後修飾の解明 ヒトTrpRSは多機能性蛋白質であり、細胞質、核、細胞膜表面、細胞からの分泌など、局在を大きく変える。まず、細胞画分を回収し、質量分析を用いて、翻訳後修飾が起こっているアミノ酸残基及び修飾の種類を特定することに挑む。その後、TrpRSの翻訳後修飾と、TrpRSの細胞内外の局在や多機能性の制御との関連性の解明を目指す。
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