研究課題/領域番号 |
20K06538
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
奥村 英一 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00323808)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵成熟誘起ホルモン / 1-methyladenine / 1-メチルアデニン / 受容体 / GPCR / ケミカルジェネティクス / シグナル伝達 / イトマキヒトデ |
研究実績の概要 |
ヒトデ卵成熟誘起ホルモンの受容体の同定が本研究の目的であり、昨年に引き続き、申請者がこれまでに見いだした有力候補であるGタンパク質共役型受容体(GPCR)が真の受容体であるかどうかを確かめるための解析を行った。細胞内の候補GPCRの機能阻害を期待して、昨年度に引き続き抗体による阻害を試すとともに、新たに機能不全型GPCR変異体を作成して競合的阻害実験を試した。 抗体による阻害については、細胞内突出部分を抗原とした抗体を細胞内に直接注射しただけでは阻害効果を得られなかったため、本年度は、抗体をGPCRが局在する細胞膜部分へ運搬・濃縮するための機能タンパク質のmRNAをあらかじめ細胞に注射することで、わずかであるがコントロール抗体に比べて卵成熟を阻害する結果が得られた。明確な差が出なかったため、膜へ運搬・濃縮する作用を蛍光標識抗体と混合して検証したところ膜への集積は見られたものの多くは細胞質にとどまっていた。引き続き他の膜局在化シグナルも試している。阻害用の抗体については、他に4種類のペプチド抗体を作成しており、そのうち1種類は全く効果がなかったが、他の3種類については、細胞膜の外側の領域を抗原としているため、培養液に添加して阻害実験を実施するために必要な精製濃縮抗体の準備を進めた。予備実験では効果が見られなかったため、より抗体が反応しやすくなるようにFab断片化抗体の調製を進めている。 抗体以外の阻害実験として、GPCRの機能に重要な働きを担うC末テール部分の一部を欠損させた変異体をいくつか作成した。そのうちのひとつは、変異を入れていないGPCRを発現させた時と比べて、卵成熟誘起ホルモンへの応答性にわずかではあるが差が見られた。発現させたGPCRが正しく膜に局在化したかを確認するため、N末細胞外領域に挿入したTag抗体を用いて関節免疫蛍光染色を行い膜局在化を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度に所属機関で実施されたCOVID-19対策のための出校制限による研究の遅れが現在もとり戻せていないことが、現在までの進捗が遅れている理由である。本研究は実験を主体とする研究であるにもかかわらず、昨年度は約半年間出校自粛で実験を行えず、その後も出校制限により実験を行う時間が十分に確保できなかった。制限解除後は、できるだけ効率的に進めるよう努力しているものの現在も遅れを取り戻すには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
候補GPCRがヒトデ卵細胞内で卵生熟誘起ホルモンに応答する受容体であるかを確認するため、引き続き抗体による阻害実験と変異型GPCRの発現による競合的阻害実験を進める 抗体による阻害については、5種類の抗体のなかで、まだ阻害効果に関する結論が出ていない3種類の抗体について、解析を進める。最近できた2種類の抗体については、同じファミリーに属するGPCRでは機能発現に関連する場合もある領域であるため、何らかの効果が出ることを期待している。また、わずかに阻害効果を示した内部領域に対する抗体については、抗体の膜局在化の効率化による阻害効果の上昇を期待し、抗体を膜へ運搬・濃縮する機能タンパク質の効率化を局在化シグナルの変更とスペーサーの挿入などにより進める。 抗体以外の阻害実験としては、まだ試していない機能不全を期待する変異体GPCRを発現させて競合的阻害実験を試みる。これまで試した変異体以外に2種類設計しており、まずはこれらの阻害効果を調べる。それ以外の変異体については、残念ながら機能不全型変異の確立された手法はないが、GPCRの機能に重要な部位に関する報告は複数あるため、そうした領域を標的とした候補GPCR変異体の設計を進める。 これまで抗体による阻害と変異体による阻害で、どちらも僅かではあるが阻害効果を示していたため、これらを組み合わせることで、より強力に阻害できないかを試してみる。ただし、2つの阻害を組み合わせは細胞へのストレスが大きいため、コントロール実験に十分留意して進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度である2020年度にCOVID-19の影響による出校制限があり、実験系である本研究課題に半年分以上の大きな遅れが生じ、本年度もその遅れを取り戻せていない状況にある。そのため、昨年度と本年度の予算執行額が、当初の計画よりも下回り、次年度使用額が生じてしまった。 執行予定の予算の中でも本研究で使用する研究用試薬に関しては、使用期限が短いものも多く、必要な時に必要なだけ購入することが望ましいため、研究の遅れに伴い購入が次年度へ延期されていた。また、出張が禁止や自粛されていた期間も長かったため、旅費の使用も同一県内のものに限られ、遠方への出張は出来なかった。 翌年度の使用計画については、基本的には当初本年度末までに実施予定であったが遅れていた計画内容を翌年度にずらして実施する計画である。現在は研究室に滞在できる時間制限も解除されているため、これ以上の遅滞なく研究を進め予算を使用できると考えている。ただ現在も当初の計画からの遅れをとり戻せていないため、翌年度の使用は、生じた次年度使用額を研究の進捗に合わせて使用した後、翌年度使用予定の予算の使用を出来るだけ遅れを取り戻しつつ進めたいと考えている。
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