研究課題
TGFb(Transforming Growth Factor b)は腫瘍抑制作用と腫瘍促進作用の二面性を持つ増殖因子である。このためTGFbの生理作用は多彩であり、増殖抑制作用、アポトーシス誘導、EMT(Epithelial-Mesenchymal transition, 上皮間葉転換)誘導などが知られる。EMTは正常発生、傷の治癒、がんの転移などに関わることが知られる。cis-NATs(cis-Natural Antisense Transcripts)とは、センス鎖(パートナー遺伝子)と同じ領域から転写される逆方向の転写産物である。申請者はcis-NATsのパラダイムであるTsixの分子機構について独自の研究を進めてきた。近年我々はTsixによるXistプロモーターへのヘテロクロマチン形成が段階的に行われることを明らかにした。Tsixの様に、一部のcis-NATsはそのパートナーの転写をエピジェネティックにかつ恒常的に抑制する潜在能力を持つと思われる。しかしながら、数多くのcis-NATsの潜在能力は依然不明なままである。本提案では、TGFb応答の研究領域とcis-NATsの研究領域を融合し、TGFb応答遺伝子のcis-NATsを①体系的に探索・編纂し、その②生理的機能解明(EMT、アポトーシス、がんの悪性度など)、および③分子機構解明(エピジェネティック修飾変化の多角的検証)を目標としている。本年度は、①TGFb応答遺伝子のcis-NATsの体系的な探索・編纂に集中し研究を行った。その結果、独自にRNA-seqのデータを得て、それを元にTGFbにより逆相関の発現パターンを示すcisNATs pair群を多数同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、①TGFb応答遺伝子のcis-NATsの体系的な探索・編纂に集中し研究を行った。その結果、RNA-seq解析を行い、TGFbによって発現変動する遺伝子群を網羅的に同定することができた。このRNA-seqのデータを元に、TGFbにより逆相関の発現パターンを示すcisNATs pair群を多数同定することに成功した。また、qRT-PCRにてそれらcis-NATs群の逆相関発現パターンをさらに検証し、今後機能解析に回すための候補遺伝子群を多数同定することができた。
本年度の研究成果で得ることができた、TGFb刺激により逆相関の発現パターンを示すcisNATs pairの候補遺伝子群を、実験計画にそって以下の解析を進めていく。②生理的機能解明(EMT、アポトーシス、がんの悪性度など)③分子機構解明(エピジェネティック修飾変化の多角的検証)。②生理的機能解明としては、cisNATs群のノックダウンによるEMTおよびアポトーシスへの影響を、分子機構解明としては、ヒストン修飾酵素やDNAメチル化酵素のノックダウンによりcisNATsペアの遺伝子抑制が解除されるかを検討する。これらを統合して、TGFb応答反応の新機構の理解およびcis-NATsの一般性や生理機能の理解への貢献を目指す。
本年度は、ノックダウンやChIP等、比較的費用がかさむ研究を行わなかったためであり、これらは次年度以降に集中して行うことで研究提案にそった研究を引き続き遂行していきたい。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cell Reports
巻: 34 ページ: 108912
10.1016/j.celrep.2021.108912.