申請時に設定した3つの問いに分けて研究実績の概要を報告する。 (1)造血系(幹細胞)におけるPP6の生理機能は?その後の解析は担当者がおらず進まなかった。(2)PP6がオートファジー誘導に関与する分子メカニズムは?2020年度に論文として公表し、研究としては初期の目標を達成した。(3)腫瘍形成時には増殖促進、正常細胞時には増殖抑制とPpp6c欠損効果が真逆になるパラドックスの理由は?詳しく解析するために誘導欠損ができるMEF細胞を樹立し、これを用いてNEF細胞での増殖と造腫瘍に対するPpp6cの欠損効果を検討した。個体レベルの結果とは異なり、少なくともMEF細胞では、活性化型K-Ras発現があったとしても、平板培養や軟寒天培地でのコロニー形成能と同系マウスへの移植による腫瘍形成能はPpp6c欠損により大幅に減少した。MEF細胞では、従来の個体レベルの結果とは異なり、活性化型K-Ras発現の有無によらず、PP6は細胞の増殖・造腫瘍形成に必須であることを明らかにした。(4)リン酸化反応が重要な神経系と脂肪細胞系でのPP6の機能は? Nestin-Cre(神経幹細胞で欠損)で欠損させた胎生18.5日目の脳で、大脳新皮質第Ⅴ・Ⅵ層の神経細胞数の減少が認められた。このことから、神経幹細胞特異的KOマウスでは大脳新皮質下層神経において、細胞の増殖や移動の異常などの発生異常が生じていることが示唆された。しかし、大脳新皮質第Ⅴ層神経の増殖に関しての異常は認められなかった。他にも、大脳新皮質第Ⅰ層部分に存在する介在神経の細胞数の減少が認められた。このことから、介在神経においても発生異常が示唆された。
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