研究課題/領域番号 |
20K06546
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
中村 守彦 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (20155865)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ユビキチン様タンパク質 / マクロファージ / 糖代謝 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
Monoclonal nonspecific suppressor factor β(MNSFβ)は多くの臓器に恒常的に発現しており、炎症反応、免疫応答、細胞分裂など様々な生体現象に関与するユビキチン様タンパク質である。近年、当研究室では、マクロファージ系細胞株RAW264.7細胞に対するMNSFβ siRNA処理が、乳酸産生を有意に抑制することを確認している。しかし、MNSFβとがん細胞における乳酸産生及び糖代謝との関連については、十分に解析されていない。そこで本研究では、乳酸産生および糖代謝におけるMNSFβの関与を、マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7を用いて検討した。 MNSFβ siRNA処理したRAW264.7細胞において、乳酸産生量およびグルコースの取り込み量を測定した結果、ともに有意な減少が観察された。そこで、グルコーストランスポーターであるGLUT3の発現に着目したところ、MNSFβ siRNA処理による発現低下を観察した。GLUT3の減少は、MNSFβをノックダウンし、1 μg/ml LPSで刺激した場合でも確認された。加えて、細胞増殖に対するMNSFβの影響を調べると、RAW264.7細胞の増殖は、MNSFβノックダウンによって抑制された。以上より、MNSFβノックダウンによるGLUT3発現の減少が、グルコースの取り込み減少をもたらし、その結果、乳酸産生が抑制されることが示唆された。 Hypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)は、がん細胞において解糖系調節の中心的役割を担う転写因子である。MNSFβがHIF-1αを介して糖代謝に影響を与えると仮定し、HIF-1αの解析を行ったところ、MNSFβ siRNA処理後、LPS刺激したRAW264.7細胞ではHIF-1α発現が上昇した。MNSFβをノックダウンしたRAW264.7細胞においては、ROS産生が増加しており、HIF-1αシグナルへの関与の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画書に記載の通り、研究遂行できた。ユビキチン様タンパク質であるMNSFβによるがん細胞増殖調節機構として、糖代謝制御が深く関わることを生化学・分子生物的に明らかにした。具体的には、糖代謝に関わる乳酸産生およびGLUT3発現などをMNSFβが調節することを、siRNAトランスフェクション、ウェスタンブロット法を中心に検証した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、計画通りに研究を遂行する。MNSFβがHIF-1αとは独立して解糖系を調節する詳細なメカニズムを検討する。一部、計画以上の成果が上がったので、サイトカインと糖代謝のリプログラミングの関連などについても解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画以上に研究が進み、研究課題に関連した実験を遂行する必要が生じたため、研究費の一部を繰り越した。
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