研究課題/領域番号 |
20K06548
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小西 博昭 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (40252811)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞情報伝達 / タンパク質リン酸化 / アダプタータンパク質 / タンパク質凝集 |
研究実績の概要 |
EGF(上皮細胞増殖因子)受容体下流で機能し、リン酸化酵素Erkの制御に関与するアダプタータンパク質GAREMについては、GAREM2特異的に見られるEGF刺激後の顆粒形成機構について詳細に解析した。GAREMは発現部位の異なるGAREM1とGAREM2の2種類の分子種が存在する。広範な臓器で発現するGAREM1は基本的にEGF刺激前後で大きな局在の変化は見られず、細胞膜及びアクチン繊維の豊富な葉状仮足付近に多く局在する。一方、EGF刺激前は細胞質全体に局在するGAREM2は、刺激後に特徴的な顆粒を形成し、刺激前後で大きな局在変化を伴うことがわかった。また、長時間のEGF刺激では顆粒が肥大化し、凝集することも見出した。GAREM2が特異的に発現する脳ではいくつかのタンパク質の凝集がアルツハイマー病やハンチントン病などの神経変性疾患に関与していることから、GAREM2の細胞増殖因子刺激依存的な凝集形成のメカニズムに興味を抱いた。GAREM1と2は上記の共通の機能を持つために、Grb2結合部位であるプロリンリッチ領域やチロシンリン酸化部位など、多くの共通構造を持つので、全体的にはアミノ酸レベルで約62%の相同性を有する。そこで、GAREM1とGAREM2のキメラタンパク質を遺伝子工学的にGFP融合タンパク質として発現させ、それらの局在を調べ、GAREM2特異的局在に必要な領域を検索した。その結果、比較的アミノ末端(全長874アミノ酸の170-210番目付近)に存在するグリシンに富む領域が、GAREM2の顆粒形成に必要であることがわかった。また、その部分は、GAREM2の機能に必須であるチロシンリン酸化にも影響があることも見出した。 本研究結果はCell. Mol. Biol. lett.誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画の申請時には想定していなかったが、研究場所を移動したため、研究室の引っ越し及び再立ち上げの間、研究活動が停滞してしまった。幸い前職で使用していた実験機器の多くは現職でも使用でき、新たな研究室においても培養細胞を用いた生化学、分子生物学的実験に関しては問題なく再開できた。異動前に本課題はまだ審査中で、非採択だった場合は、研究室引っ越し後のセットアップの費用を捻出する必要があったため、前課題の最終年度の研究費を今年度に繰り越させていただいたのは非常に有難かった。しかし、着任後半年は研究室の人員は当方のみで、マンパワーが足りないため、動物飼育、系統維持などが再開できず、ノックアウト(KO)マウスを用いた解析が滞っている。2019年度に先端モデル動物支援プラットフォームに採択されていたGAREM1、2のダブルノックアウト(DKO)マウスの行動解析も中止となり、本年度新たに応募し、採択されれば早急に動物飼育を再開する予定である。研究室の教員は当方のみであるが、新たに配属された学生と協力し、WDR54のKOマウスを用いた解析も再開したいと考えている。 培養細胞を用いたGAREM1、2の細胞増殖因子刺激依存的な細胞内局在の相違に関する研究結果については、新しい研究室での最初の論文として発表できた。 GAREM1と2は機能領域についてはタンパク質構造上の共通点が多いが、細胞刺激した両GAREMのバンドシフトはGAREM2の方が大きく、チロシンのみならず複数のセリン・スレオニン残基がリン酸化されている可能性が高い。そのため、それぞれのGAREM分子種の結合タンパク質の種類もかなり異なることが示唆された。 また、CLPABPの有無により発現量が大きく影響されるmRNAの種類を精査し、いくつかの機能未知遺伝子を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
すでにGAREM1、GAREM2それぞれのKOマウスを交配することにより、両分子種を発現しないDKOマウスを作製し、その個体も正常に発生・生育することは確認済みである。しかし、明らかにGAREM1単独KOマウスよりもさらに小型で、GAREM2単独KOマウスよりも顕著な行動的特徴が認められる。GAREM1も脳に発現していることから、DKOマウスでは脳機能により大きな影響が出ることが予想され、本研究では先端モデル動物支援プラットフォームのご協力のもと、DKOマウスの詳細な行動解析を行う予定である。 細胞増殖因子刺激後の局在がそれぞれのGAREMで異なり、特にGAREM2は刺激後顆粒形成が見られ、さらに長時間の刺激後は凝集する。その主な原因が、GAREM2にのみ存在する比較的短いグリシンリッチ領域であることは明らかにしたが、おそらくリン酸化も凝集に関与しているので、チロシンのみならずセリン・スレオニンのリン酸化部位についても詳細に調べ、凝集のメカニズム解明を目指す。 次世代シークエンサーによるCLPABP依存的に発現量が変化する遺伝子の網羅的配列決定を行った。その結果、野生型とCLPABP KOのMEF細胞由来の総RNA間(約15000種)で、発現量が2倍以上増減する種類は約1500以上であった。その内訳として、野生型に比較し、CLPABPを発現しない細胞で2倍以上転写量が増加するRNAが736種類に対し、800種類は2倍以上減少した。本研究では、RNA-seq解析から得られた情報をもとに、ARE(AU-richエレメント)データベースなどを検索し、転写物の特徴や非翻訳領域構造の共通性を解明して、その生理的意義づけについて解析する。 WDR54は転写レベルでは精巣での発現が多いことがわかっており、特に生殖系や精子形成における影響に着目してWDR54のKOマウスの解析を進める予定である。
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