研究課題/領域番号 |
20K06550
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
堅田 利明 武蔵野大学, 薬学部, 教授 (10088859)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞内シグナル伝達系 / 感染症 / 病原性 / p21-activated kinase / 遺伝学 / 生化学 / 分子細胞生物学 / 阻害剤スクリーニング |
研究実績の概要 |
本研究では、真菌の病原性獲得機構の分子基盤の理解と新たな抗真菌薬の標的探索に向けて、真菌の形態変化と細胞増殖に関わるシグナル受容・応答機構を解明する。真菌の病原性獲得といった新しい視点から、ヒトとは異なるシグナル伝達系に創薬標的を求める探索研究は、的確なアプローチであり、新奇性・独創性の高いものである。これまでに病原性真菌のモデルとして皮膚糸状菌のRac及びCDC42が菌糸成長に寄与することが明らかとなっている。そこで、本年度は既存のヒトRac1及びヒトCDC42の阻害剤を用いて、皮膚糸状菌の胞子からの発芽及び菌糸成長の抑制が見られるかを検討した。検討した10種類の阻害剤のうち4種類で胞子の発芽を抑制した。さらに、in vitroでグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)によるRac及びCDC42の活性化を抑制する活性を検討したところ、上記4種類の化合物のうち2種類がRac及びCDC42の活性化を阻害した。また、Rac及びCDC42の下流分子候補として2種類のp21-activated kinases (PAKs)遺伝子について欠損株もしくは条件発現抑制株を作出し、菌糸成長への寄与を検討したところ、そのうち一種類の欠損株で菌糸成長の顕著な抑制が見られた。このことから、Rac及びCDC42の活性化を化合物を用いて抑制することで、病原性真菌の菌糸成長を抑制できること、Rac及びCC42下流エフェクター候補としてPAKが菌糸成長に寄与する新たな抗真菌薬標的候補タンパク質であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、生化学、遺伝学、及び細胞生物学的な手法を用いて、真菌の病原性獲得において鍵となるシグナル伝達系の分子基盤を解明する。病原性真菌の形態形成は、宿主に対する病原性に関与する。そこで本年は計画どおり、真菌の形態形成を司る分子の探索を行うために、病原性真菌である皮膚糸状菌をモデルとしてシグナル伝達経路の阻害剤を用いた表現形の評価・探索を行った。その中で、Rac及びCDC42の阻害剤に細胞形態を阻害するものが見出された。また、上記阻害剤のin vitroでのRac及びCDC42阻害活性を定量的に検討し、菌糸形態形成を抑制する4種類の化合物のうち2種類でRac及びCDC42タンパク質双方の活性化を阻害することを明らかにした。さらに、細胞形態形成に関与する生物間で共通して見られるシグナル伝達経路としてRac及びCDC42下流の経路に着目し、構成タンパク質候補であるPAKsの欠損株または条件発現株を作出し、これらの変異株のうちCla4遺伝子の欠損により菌糸成長の異常が見られた。以上のことから、本研究は菌糸成長を制御する細胞内シグナル伝達系の解明に向け順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方針として、菌糸成長への寄与が見られた遺伝子がコードするタンパク質の生化学的・構造生物学的解析を推進するため、各タンパク質の大量精製手法の確立を目指している。特にPAKsについては可溶性のタンパク質を得ることができておらず、in vitroにおける活性の評価に進めていない。そこで、キナーゼ活性ドメインやCDC42 Rac interactive bindingドメインのみの発現や可溶化タグを用いることで可溶性タンパク質の大量発現を行う予定である。可溶性タンパク質を得られれば、in vitroでのGSTプルダウンアッセイやキナーゼ活性の評価を行い、さらに各活性を阻害する薬剤の探索及びそれら薬剤が菌糸成長を抑制するかの検討を推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19感染症に伴う緊急事態宣言等による研究施設への立ち入り制限により、実験施設を用いた研究ができない期間があったため、執行額が予定より少なかった。また、現在も部分的な施設の使用制限は残っており、次年度は外部受注等も使用しつつ研究を遂行していく予定である。計画としてはタンパク質の大量発現系の構築、アッセイ系の構築を行う予定であり、施設利用が困難な時期がある可能性も考慮しつつ、外部受注による構築ずみタグ入りベクターの購入や、人工遺伝子合成等も利用し、研究を加速させていく。
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