今年度は、第1に、肥満モデルマウスであるレプチン欠損マウスを用い、骨格筋においてインスリン応答性糖取込みを制御する、低分子量GTPアーゼRac1を介するシグナル伝達系が、肥満によりどのような影響を受けるかを解析した。まず、レプチン欠損マウスの骨格筋では、インスリン応答性のRac1活性化が完全に阻害されていた。そこで、Rac1の上流と下流のシグナル伝達への肥満の影響を詳細に解析した結果、Rac1の上流のシグナル伝達系は完全に阻害される一方、Rac1の下流では、Rac1によるRalAの活性化が部分的に抑制されていた。したがって、肥満になると、Rac1の上流と下流での2つのメカニズムによって、骨格筋でのインスリン応答性の糖取込みが阻害され、糖尿病が誘発されると考えられる。第2に、脂肪酸輸送担体CD36の新規レポーターアッセイを開発し、これを用いて、3T3-L1脂肪細胞でのインスリン応答性脂肪酸取込みシグナル伝達系におけるRac1の機能を解析した。その結果、GLUT4を介する糖取込みと同様に、Rac1が重要な役割を果たし、その下流では低分子量GTPアーゼRalAが機能していることが示された。以上の結果より、インスリン応答性脂肪酸取込みの低下が、脂肪細胞特異的rac1ノックアウトマウスにおける白色脂肪組織の萎縮と肥満を伴わない糖尿病の発症原因の一つである可能性が示唆された。 研究期間全体を通じて、当研究グループによって作出した脂肪細胞特異的rac1ノックアウトマウスにおいて観察された白色脂肪組織の萎縮のメカニズムの解明を通じて、白色脂肪細胞の分化と肥大化におけるRac1とRalAの生理機能を解明した。さらに、レプチン欠損マウスの骨格筋におけるRac1シグナル伝達系の解析を通じて、白色脂肪組織と骨格筋の生理的クロストークを明らかにし、肥満による糖尿病発症の新規メカニズムを提唱した。
|