研究課題/領域番号 |
20K06561
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
出嶋 克史 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (60457439)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 亜鉛輸送体 / C. elegans / RNAi / 小胞輸送 |
研究実績の概要 |
二本鎖RNAやマイクロRNAを始めとする機能的RNAは、標的となるRNAの配列特異的に遺伝子の発現を抑圧する働きを有する。すなわち、これら機能的RNAはRNA干渉(RNAi)を引き起こす。機能的RNAは基本的には細胞内で働く分子であるが、一部は細胞外へ放出され、細胞非自律的に遺伝子発現調節を担うことが知られる。こうした特性があるため、病気の原因となるような遺伝子の発現を抑えるような目的で機能的RNAは核酸医療薬へ応用できる可能性を秘めている。しかしながら、細胞外の機能的なRNAが細胞間を伝播する分子機序についての理解は乏しい。線虫C. elegansにおいては、高等生物における機能的なRNAの標的細胞への伝播と類似する現象「全身性RNAi」が知られる。これまでに、「全身性RNAi」に着目することで、ある種の亜鉛輸送体や亜鉛が機能的なRNAの取り込みを負に制御することを見出してきた。本研究では、亜鉛の標的となる分子の解析を行い、亜鉛を介した機能的なRNAの細胞間伝搬機構の理解を目指している。これまでに、同定した新規因子の基本的な特徴(遺伝子発現パターンや、細胞内局在パターン、完全ノックアウト時の表現型など)についてのデータを得ている。また、既知の全身性RNAi関与遺伝子などとの遺伝学的関係性も明らかにしている。加えて、この遺伝子の阻害により亜鉛代謝に影響が出るという点や、亜鉛輸送活性を持たないと考えられるフォームではレスキュー活性がないことを見出している。今年度は、哺乳類培養細胞におけるsiRNA効率に線虫で同定した分子のホモログの寄与があるかということについて解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに線虫C. elegansにおいて亜鉛輸送体の一つが全身性RNAiに関与することを明らかにしている。しかし、本分子が高等生物においても同様な役割を果たすかという点については不明であった。そこで、線虫C. elegansで同定した新規RNAi関連因子である亜鉛輸送体のヒトオーソログ遺伝子をクローニングし、線虫変異体におけるRNAi異常の表現方をレスキューするかどうか調査した。線虫の遺伝子と比べると、レスキュー活性が著しく低いものの、ヒトオーソログ遺伝子は異常を有意にレスキューした。続いて、ヒトの培養細胞においてこの遺伝子のノックダウンをした後にsiRNAの作用効率に影響があるかという点について調査した。遺伝子ノックダウンはqPCRにて確認できたものの、siRNA作用効率には影響が認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの培養細胞においてこの遺伝子のノックダウンをした後にsiRNAの作用効率に影響があるかという点について調査したものの、期待とは反して、siRNA作用効率には影響が認められなかった。用いた細胞種では影響が見出しにくい可能性や、siRNA効率の評価方法の問題なども考えられる。細胞を変えるなど実験条件を変えることで哺乳類における本遺伝子の関与についても明らかにできる可能性もあるが、そもそも線虫でどのように本分子がRNAiに関わるかということについての理解が十分ではないため、手当たりしだいに多様な条件を試行することで効果的な実験方法を導き出すためには時間を要すると考えた。そこで、一旦高等動物における役割についての評価は保留し、線虫における本分子が働く分子メカニズムについてより深い理解を得るための実験を組むことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)消耗品として、遺伝子工学(enzymes: DNA polymerase, RNA polymerase, restriction enzymes, purification kits, DNA sequencing etc.)やイメージングに要する試薬、プラスティック器具などを購入する予定であったが、一部の解析が予定通りに進まなかった、あるいは、遺伝子破壊など、一部の手法を効率的に進めることができたため、次年度使用額分の未使用金が生じた。 (使用計画)更なる実験の効率化に勤めて、当該年度に計画していた実験を速やかに次年度に行い、遺伝子工学やイメージングに要する試薬を中心に消耗品などの購入を計画している。
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