研究課題/領域番号 |
20K06563
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
米田 敦子 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (80590372)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イノシトールリン脂質 / 癌 |
研究実績の概要 |
細胞膜は脂質2重層(内葉と外葉)からなるが、脂質組成は2層で異なる。細胞膜内葉に多い脂質のうち、ホスファチジルセリンなどが細胞膜外葉へ反転することはアポトーシスや細胞膜融合などで観察されるが、イノシトールリン脂質については未知である。最近、我々の研究室では、細胞膜内葉に局在するとされ、様々な細胞応答に重要な働きをするホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)が、細胞膜外葉にも局在することを見出していた。本研究では、細胞膜外葉への PIP2 の出現・反転機構、癌悪性化における細胞膜外葉 PIP2 の機能を明らかにすることを目的としている。本研究により細胞膜外葉 PIP2 が関わる疾病の治療応用と阻害剤開発への基礎形成が期待される。本年度は、がん細胞、免疫細胞など様々なタイプの細胞における細胞膜外葉PIP2 の存在を、新たに作成したPIP2検出プローブと抗PIP2抗体の2つのタイプの試薬により示した。また、生細胞の細胞膜外葉PIP2を定量できる系も確立した。細胞膜外葉PIP2をマスキングする試薬を用い、細胞膜外葉PIP2がヒトがん細胞の接着、遊走に関わることを示した。PIP2 分解酵素を細胞膜外葉 PIP2 に恒常的に作用させることを目指して、分泌型 PIP2 分解酵素をデザインし、これを細胞に発現し、培養上清から回収できることを示した。これらの結果の一部を学会で発表し、査読付き論文にも発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト大腸がん、ヒト悪性黒色腫などのがん細胞や、マクロファージ細胞など、癌悪性化に関わりうる様々な細胞種において、新たに作成したPIP2検出蛍光プローブと抗PIP2抗体の異なる2タイプの試薬により細胞膜外葉PIP2 を検出した。さらにPIP2 分解酵素をオートクライン様式で細胞膜外葉 PIP2 に作用させるため、分泌型酵素をデザインした。これを外葉PIP2が検出されている細胞数種に導入し、タグ付き酵素が培養上清に分泌されていること、タグ抗体で免疫沈降できることを示した。この方法で細胞膜外葉PIP2量を減少させるに十分な量の発現にはいたらなかったが、3つの異なる抗PIP2抗体と、新たに作成したPIP2検出蛍光プローブの異なる試薬で細胞膜外葉PIP2を検出した。さらに、生細胞の外葉PIP2を蛍光プローブで定量できる系も確立した。細胞膜外葉PIP2をマスキングする試薬を用い、細胞膜外葉PIP2がヒトがん細胞の接着、遊走に関わることを示した。以上の結果の一部を、論文に発表したため、順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
細胞膜外葉 PIP2 の近傍に存在するタンパク質を単離同定し、細胞膜外葉 PIP2 量を変化させる因子や、細胞接着に関わる因子を特定する。他の脂質反転に関わる因子がPIP2の反転に関与するかも検証する。細胞膜外葉PIP2依存的な細胞接着に、主要な細胞膜接着因子が関与するか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果を発表した学会が誌上開催やオンライン開催であったため、旅費を使用しなかった。比較的安価な試薬を用いる実験を行った。近傍タンパク質単離のためのツール作成の段階にあり、委託解析は今年度に使用することとした、などのためである。 細胞膜外葉 PIP2 近傍タンパク質を単離同定し、細胞膜外葉 PIP2 量を変化させる因子と、細胞接着に関わる因子を特定する。他の脂質反転関連因子や主要な接着因子の関与も検討する。そのため、細胞生物学、分子生物学、生化学実験に必要な費用と、委託解析、学会参加のための旅費などに使用する予定である。
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