本研究では,大腸菌の遊泳時に推進力を生み出すべん毛モーターの回転機構に着目して研究を進めている.モーターは,イオンチャネルとしても機能するトルク発生ユニット・固定子MotA/MotB複合体の細胞質ドメインと回転子リングを構成するFliGタンパク質の間の相互作用によって生まれる.固定子は複数個同時に回転子リングに相互作用し,その機能を調節している.また,固定子複合体は2分子のMotBと5分子のMotAからなり,MotBのアスパラギン酸にイオンが結合する度に,5量体のMotAがMotBを中心に回転する固定子内回転モデルが提案されている. 本研究課題においては,固定子複合体内のMotBの機能を独立に制御できるヘテロMotB固定子複合体を利用して研究を進めた.この系では,機能に重要な部位を特定することが効率的に解析を進める上で不可欠である.そこでMotBに非天然アミノ酸pBPAを組み込んで紫外光を照射することで,MotAとMotBの間で光架橋を形成させ,固定子内回転モデルに重要な界面の特定を目指した.pBPAを組み込んだモーターの回転を計測しながら紫外光を照射したところ,一部のMotB-pBPA変異体については,回転速度が段階的に低下した.これは,光架橋によって固定子複合体が不活化し,モーターから離脱するために起こったと考えられた.これら回転トルク発生に重要な部位・界面を大腸菌固定子の予測構造にマッピングしたところ,単純にMotA-B界面に位置しているわけではなかった.さらなる検討は必要であるものの回転モデルを考察する上で興味深い結果が得られた.
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