研究課題/領域番号 |
20K06565
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
紺谷 圏二 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (30302615)
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研究分担者 |
荒木 信 明治薬科大学, 薬学部, 助教 (20552904)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低分子量Gタンパク質 / RHEB / 精神疾患 / HPLC / 細胞小器官 |
研究実績の概要 |
低分子量Gタンパク質は不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型の構造変換を介して、“分子スイッチ”として機能しており、ヒトでは150種類以上存在する。それらは一次構造上の特徴からRAS、RHO/RAC、RAB、ARF/ARL、RANの5つのサブファミリーに分類され、細胞増殖、細胞骨格、細胞内物質輸送などの制御を行っている。低分子量Gタンパク質の活性化型と不活性型のバランスは、多くの調節因子群によって厳密に制御されており、その制御の乱れはRASに代表されるように、癌などの疾患の発症に結び付いている。 近年、RASサブファミリーに属するRHEBに関して、精神疾患に関連する変異(RHEB/P37L及びRHEB/S68P)が報告されたが、それらの変異がRHEBの生化学的性状に与える影響に関しては未解明であった。今回、我々が先に開発したHPLCによる低分子量Gタンパク質の活性化状態解析法を用いて、細胞内におけるRHEB/P37L及びRHEB/S68P のグアニンヌクレオチド結合状態を解析したところ、いずれの変異体も、野生型に比べてGTP結合型の割合が増大していた。さらにその原因について解析するため、精製タンパク質を用いて解析を行ったところ、RHEB/P37Lでは、RHEBのGAPであるTSC2に対する感受性の消失がGTP結合型比率の上昇の原因となっていることが明らかとなった。また、RHEB/S68Pに関しては、TSC2に対する感受性の低下に加え、GDP解離速度の亢進に伴うGTP結合速度の上昇が、GTP結合型比率の上昇に寄与することが分かった。以上により、RHEBのP37L及びS68P変異では、それぞれ異なる機構でGTP結合型比率が上昇し、mTORC1下流シグナルの増強を引き起こすことで、精神疾患の発症に介在していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らはこれまでに繊毛性疾患に関連したARL6の遺伝子変異や、メラノーマに関連したRAC1の遺伝子変異に関して、それらの遺伝子変異が各低分子量Gタンパク質の特性に与える影響を解析してきた。また申請者は、HPLCを用いて低分子量Gタンパク質の活性化状態を簡便にモニターする実験系の構築を進めてきたが、今回これを応用し、低分子量Gタンパク質RHEBの精神疾患関連変異がその性状に及ぼす影響を解析した。その結果、それらの変異は、細胞内におけるRHEBのgain-of-functionを惹起することが明らかになった。さらに精製リコンビナントタンパク質を用いた解析から、RHEB/P37Lに関してはTSC2に対する感受性の消失が、RHEB/S68Pに関してはTSC2に対する感受性の低下に加え、GDP解離速度の亢進に伴うGTP結合速度の上昇が、細胞内におけるGTP結合型比率の上昇の原因であることが示唆された。本研究で得られた知見および開発した手法は、変異型RHEBの活性を制御する化合物のスクリーニングや、他の低分子量Gタンパク質の活性化状態の解析に応用できることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
RASやRHO/RACなどの低分子量Gタンパク質のように、細胞内における活性化状態や制御機構に関する解析が進んでいる分子が存在する一方で、150種類以上存在する低分子量Gタンパク質の多くについては、それらに関する知見は限定的である。特に細胞内物質輸送に介在するARF/ARLサブファミリーの中で、主にデータベース上で同定されたARL分子群については殆ど解析が進んでいない。そこで我々が開発したHPLCを用いた手法により、ARL分子群などに関して細胞内におけるグアニンヌクレオチド結合状態を解析し、基礎的知見を得る。さらに蛍光誘導体化によるグアニンヌクレオチド高感度検出系を組み合わせた系の確立も進め、外来性発現だけでなく、内在性タンパク質(ゲノム編集によるタグ付加などを用いる)ついても解析可能な系の構築も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究では、当初の予定よりも遺伝子工学関連および培養細胞関連の実験が少なかったため、予算に差違が生じた。翌年度分として請求した助成金との使用計画としては、本年度の研究で得られた知見を基にして、様々な低分子量Gタンパク質について各種タグをノックインした細胞を樹立するための実験、及びグアニンヌクレオチド高感度測定計の実験系の確立などを行う予定である。
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