がん原遺伝子産物RASに代表される低分子量Gタンパク質は、ヒトでは150種類以上が存在するが、それらの多くについては、細胞内における活性化状態は不明である。前年度までの研究により申請者は、低分子量Gタンパク質の活性化状態(グアニンヌクレオチド結合状態)を解析する手法として、蛍光HPLCを利用した高感度解析法を確立した。この方法は、細胞に発現した低分子量Gタンパク質を免疫沈降により回収し、その低分子量Gタンパク質に結合したGDP及びGTPを蛍光ラベル化後、HPLCにより高感度且つ定量的に解析することで、低分子量Gタンパク質の活性化状態(GDP 結合型とGTP結合型の比)を解析する手法である。この手法を利用して前年度までに、内在性レベルの発現量の低分子量Gタンパク質であっても、その活性化状態を解析できることを明らかにしてきた。そこで最終年度では、ARF/ARLサブファミリーの一つである、ARFRP1に関して、細胞内における活性化状態の解析を行った。ARFRP1は主にトランスゴルジ網(TGN)に局在し、TGNを介した膜タンパク質の輸送に関与することが知られているが、細胞内における活性化状態やその制御に関しては不明な点が多い。申請者は、ARFRP1のC末端近傍にPAタグを付加したARFRP1-intPAを発現する細胞株を樹立し、前述の方法で細胞内における活性化状態を解析した。その結果、ARFRP1は一般的なARFファミリーとは異なり、GDP結合型でも膜に局在することが明らかとなった。さらに、Brefeldin A(BFA)で処理した細胞では、活性化型ARFRP1の比率が低下することも明らかとなり、ARFRP1の活性化動態を捉えることに初めて成功した。今後更なる解析により、ARFRP1の活性制御機構及びTGNを介した物質輸送の制御機構が解明されることが期待される。
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