研究課題
オートファジーの始動は、プレオートファゴソーム構造体(PAS)が担っている。ユビキチン様タンパク質Atg8は、ユビキチン結合系に類似した酵素反応でリン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)と可逆的に結合し、オートファジーの膜伸長に直接関わる重要な分子である。オートファジーの始動に際してAtg8はPASに移行するが、その意義についてはこれまでわかっていなかった。我々はPASが,近年注目を集めている液-液相分離状態の膜のないオルガネラ(液滴)であることを最近見出した。そして液滴は細胞内における特定の酵素反応の反応場として機能することが知られていることから、PASはAtg8-PE結合反応の反応場として機能するのではないかとの着想を得た。本研究は従来の研究では欠けていた液-液相分離の視点を新たに導入することで、細胞内におけるAtg8結合反応系の真の制御機構を理解し,オートファジーの膜動態解明の一助になることを目的とする。本年度は、Atg1複合体 をin vitroで液-液相分離させることでAtg1複合体液滴(PAS液滴)を作製し、Atg8-PE結合反応に与える影響を調べた。その結果、PAS液滴はAtg8-PE結合反応を促進すること、Atg8-PE含有リポソームは液滴の表面および内部の両方に局在することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
精製したAtg1複合体 をin vitroで液-液相分離させることでAtg1複合体液滴を作製し、PAS液滴のモデルとして用いた。まず、Atg8-PEを形成するために必要な2つのユビキチン様結合系を構成するタンパク質群(Atg7、Atg3、Atg8、Atg10、Atg12-Atg5-Atg16複合体)を蛍光標識し、PAS液滴にそれぞれ添加し,共焦点レーザー顕微鏡を用いて液滴に対する各因子の局在および浸潤度を定量的に調べた。その結果、Atg8やAtg12-Atg5-Atg16複合体が速やかに液滴内に浸潤する一方で、当初の予想に反してそれ以外の因子は液滴内に浸潤しづらいことが明らかになった。次に結合系の因子群(PEとしてリポソームも含める)をATPと混合することで、Atg8-PE結合反応をin vitro再構成し、それに対するPAS液滴添加の影響を解析した。その結果、PAS液滴存在下で、Atg8-PE形成が促進されることが明らかとなった。PAS液滴存在下でのAtg8-PE化反応を共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察すると、PAS液滴の外周や内部において、Atg8-PE形成が起ることが確認された。さらに、液滴内外でのAtg8-PE含有リポソームの局在を詳細に調べるために、凍結割断レプリカ法を用いた電子顕微鏡解析を行った。その結果、共焦点レーザー顕微鏡で確認されたように、液滴の外周や内部にAtg8-PE含有リポソームを確認することができた。
凍結割断レプリカ法を用いた電子顕微鏡解析の実験条件をより詳細に検討することによって、液滴とAtg8-PE含有リポソームの関係性について明らかにしていく。PI3PのエフェクターであるAtg21がAtg8-PE結合反応を促進するという報告があることから、Atg21を液滴に導入し、Atg8-PE結合反応に与える影響を解析する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Current Opinion in Cell Biology
巻: 69 ページ: 23-29
10.1016/j.ceb.2020.12.011
Nature Nanotechnology
巻: 16 ページ: 181-189
10.1038/s41565-020-00798-9
https://www.bikaken.or.jp/