研究課題/領域番号 |
20K06571
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鎌形 清人 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90432492)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / タンパク質工学 / 単分子計測 / スライディング / 合理的設計 |
研究実績の概要 |
ゲノム編集とは、特殊なDNA結合タンパク質を用いて、遺伝情報を含むDNAを自在に書き換える技術である。将来的に遺伝子治療での使用が期待されるが、編集に時間がかかる、標的ではないDNA配列を誤って編集するなどの問題がある。本研究では、単分子計測とタンパク質工学を組み合わせ、DNAに沿ったスライディング運動を促進させることで、速くて正確なゲノム編集タンパク質を合理的に設計することを目的とした。まず、Cas9のスライディング阻害部位を同定するため、Cas9とDNAの複合体の結晶構造に基づき、Cas9変異体を作成した。DNA整列固定技術「DNAガーデン」と単分子蛍光顕微鏡を用いて、Cas9変異体を計測したところ、Cas9のスライディング阻害部位を同定することに成功した。次に、DNA結合タンパク質Nhp6Aを対象として、スライディング促進部位の同定を行った。同様に、Nhp6AとDNAの複合体の結晶構造に基づき、Nhp6A変異体を作成した。DNAガーデンと単分子蛍光顕微鏡を用いて、Cas9変異体を計測したところ、スライディング運動の促進部位を同定することに成功した。今後は、これらの得られた知見を組み合わせて、Cas9の更なる改変を行う予定である。具体的には、上記で同定したCas9のスライディング阻害部位にアミノ酸変異を加え、DNA上を動けるように改変する。さらに、同定したスライディング促進部位をCas9のN、C末端に付加することで、DNA上をスライディングできるように改変する。DNAガーデンと単分子蛍光顕微鏡を用いて、改変Cas9の評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【タンパク質変異体の作成】ゲノム編集タンパク質Cas9とDNAの複合体の結晶構造を用いて、DNAと接触するアミノ酸を選び、それらのアミノ酸をアラニンに置換したCas9変異体を3種類作成した。スライディング促進部位の同定には、DNA結合タンパク質 Nhp6Aを用いた。Cas9と同様に、DNAと接触するアミノ酸をアラニンに置換した変異体を2種類作成した。これらのタンパク質変異体を大腸菌で発現させ、イオン交換やサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製した。次に、これらのDNA結合タンパク質が持つシステインと蛍光色素のマレイミド基との化学反応により、蛍光色素を修飾した。 【Cas9のスライディング阻害部位の同定】DNA整列固定技術「DNAガーデン」と単分子蛍光顕微鏡を用いて、蛍光色素を修飾したCas9変異体が、DNA上の標的配列を探索し結合する様子を観察する。得られた時系列データから、各Cas9変異体がDNA上をスライディングする“速さ”を決定した。ガイドRNAの非存在下では、作成した変異体の一つで、約10倍のスライディング運動の促進が観測された。 【DNA結合タンパク質のスライディング促進部位の同定】上記と同様に、DNA結合タンパク質Nhp6Aの変異体の単分子計測を行ったところ、Nhp6Aの特定の立体構造を持たない天然変性領域がNhp6Aのスライディング運動を可能にしていることが明らかとなった。 以上より、Cas9のスライディング阻害部位の同定、およびNhp6Aのスライディング促進部位の同定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、得られた知見を用いて、ゲノム編集タンパク質Cas9の改変を行う予定である。具体的には、上記で同定したCas9のスライディング阻害部位にアミノ酸変異を加え、DNA上を動けるように改変する。さらに、同定したスライディング促進部位をCas9のN、C末端に付加することで、DNA上をスライディングできるように改変する。実際に、これらの改変Cas9を大腸菌で発現させ、イオン交換やサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製する。次に、これらのDNA結合タンパク質が持つシステインと蛍光色素のマレイミド基との化学反応により、蛍光色素を修飾する。次に、DNA整列固定技術「DNAガーデン」と単分子蛍光顕微鏡を用いて、予測通りに改変Cas9がスライディングできるかを検証する。さらに、インターカレータ―で蛍光染色したDNAも同時に観察し、Cas9が編集したDNAの部位を調べる。今回は、編集の初期反応である“切断”を計測する。標的と標的以外のDNAの切断の割合から、標的を切断する“正確さ”を決定する。このように、DNAの切断個所を調べ、標的と標的以外のDNAの切断の割合から、標的を切断する正確さを評価する。さらに、大腸菌内でのDNA組み換え反応を用いて、改変Cas9が実際に細胞内でDNAの編集を行えるかを検証する。以上より、改変Cas9が予測通りDNA上をスライディングし、短時間でかつ正確に標的DNAのみを切断することを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】旅費に関して、コロナウィルスの影響により、予定していた国内出張がなくなった。また、物品費に関して、手持ちの試薬品を使うことで、実験を進めることができた。 【使用計画】次年度は、物品費として、改変Cas9の作成に必要な試薬や蛍光色素などの消耗品を購入する予定である。また、3報の論文を国外の雑誌に掲載するため、20万円×3の掲載料として使用する予定である。さらに、論文の英文校正(5万円×3)にも使用する予定である。
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