研究課題/領域番号 |
20K06574
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桑島 邦博 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 名誉教授 (70091444)
|
研究分担者 |
加藤 晃一 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 教授 (20211849)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 蛋白質フォールディング / 水素/重水素交換 / 二次元NMR / 変性状態 / 残存構造 |
研究実績の概要 |
高濃度変性剤中の球状蛋白質の残存構造の解析は,蛋白質のフォールディング研究にとって重要な問題である。本研究では,代表的な球状蛋白質を対象として,高濃度変性剤中におけるペプチド・アミド(NH)基の水素/重水素(H/D)交換反応を,スピン脱塩カラムと二次元(2D)NMR法を用いて解析し,変性蛋白質中の残存構造の詳細を明らかにする。2021年度は,Allα型蛋白質である,プロテインAのBドメイン(BDPA)について研究を実施した。 (1) BDPAのアンフォールディング転移:ペプチド領域のCDスペクトルを用いて,BDPAの塩化グアニジニウム(GdmCl)によるアンフォールディング転移を調べ,6 M GdmCl中では十分にアンフォールドした状態(U状態)にあることを確認した。 (2) BDPAのペプチドNH基のH/D交換反応:15N標識BDPAの2D 1H-15N HSQCスペクトルの55個のNH基クロスピークの内,帰属を終え追跡可能な29個について,6 M GdmCl中のH/D交換反応を,スピン脱塩カラム利用ジメチルスルホキシド停止H/D交換2D NMR法を用いて調べ,各NH基について観測された交換反応速度定数(kobs)を求めた。 (3) ポリDLアラニン(PDLA)のH/D交換反応:NH基固有のH/D交換反応速度(kint)に及ぼすGdmClの影響を調べるため,1D NMR法を用いて,PDLAのH/D交換反応を,GdmCl非存在下と6 M GdmCl下において調べた。この結果を基に,6 M GdmCl下における,BDPAの各NH基のkint値を求めることができた。各NH基の保護因子P (= kint/kobs) を求めたところ,天然状態でαヘッリクス構造を形成している領域において,P = 2~5となり,6 M GdmCl中においてもBDPAには残存構造のあることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の遂行には,研究代表者の桑島が岡崎市の研究所を訪問し,共同実験を実施することが不可欠である。COVID-19のコロナ禍のため,しばしば,まんえん防止措置や緊急事態宣言がなされ,2021年度は十分の共同実験を実施することができなかった。それでも,BDPAの6 M GdmCl中におけるH/D交換反応解析について,必要な実験を全て終えることができ,現在,その成果を一報の論文として纏めているところである。
|
今後の研究の推進方策 |
安定性の低下したBDPA変異体を用いて,U状態における残存構造のGdmCl濃度依存性を調べる。当初の予定ではβ型蛋白質など,他の構造クラスの蛋白質を対象とすることを予定していたが,予備的な実験からBDPAのL20A変異体(Leu20をAlaに置換した変異体)では,転移の中点が,3.5 Mから1.7 M GdmClにシフトし,GdmCl濃度のより広い範囲にわたってU状態の残存構造を調べることができる。そこで,BDPAのU状態の残存構造のGdmCl濃度依存性を調べてみたい。BDPA変異体のCD測定を行った結果,αヘッリクスの指標である222 nmのCD値は,6 M GdmCl中では0に近いが,3 M GdmClでは,約-2,500 deg・cm^2/dmol,0 M GdmClへの外挿値では約-5,000 deg・cm^2/dmolとなる。このような,U状態のCD値のGdmCl濃度依存性は,多くの球状蛋白質において,一般的に観測される現象であるが,U状態の残存構造との関係は全く明らかではない。この点を明らかにすることにより,残存構造と球状蛋白質のフォールディングの初期構造との関係性を明らかにできると期待している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在執筆中の論文が二報あり,これらは,前年度中に投稿予定であったが,次年度までに延びてしまった。そのため,これらの英文校正費用,投稿料などとして次年度使用額が生じた。次年度使用額は,これらの論文の英文校正費用,投稿料などとして使用予定である。
|