CaMKIIは、神経の活動履歴を分子活性として記憶する可能性があるリン酸化酵素として知られるが、CaMKII活性が長期的に維持される機構や、その活性持続時間が細胞活性によって制御されるかは十分に明らかでない。そこで、網羅的な変異CaMKIIα/β活性測定系を用いて、CaMKIIα/β活性化状態の維持時間長を制御する分子機構と、時間長制御に関わる機能部位を明らかにする。これまでに、CaMKII活性の維持時間を延長する効果のある代謝産物と、CaMKII活性の維持時間に影響を及ぼす可能性のあるCaMKII上のリン酸化候補サイトを同定してきた。本年度は、これらの知見をアミノ酸残基レベルで繋ぐことを目指した。 まず、酵素活性の維持時間と、CaMKIIの立体構造の安定性の間に相関があることを示唆する結果を得た。そこで、既知のCaMKII結晶構造から、上記代謝産物が結合する可能性のあるポケット位置を推定した。このポケットを構成する残基に対して網羅的な変異体を作製したところ、代謝産物による活性維持時間の延長をうけない変異体や、活性維持時間が延長している変異体を得ることができた。これらの結果は、CaMKIIの活性化持続時間に関わるタンパク質ドメインの存在、および、活性化持続時間が細胞内の状態(代謝産物量)に応じて調整をうける可能性を示唆している。
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