研究課題/領域番号 |
20K06578
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
槇 亙介 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (30361570)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 蛋白質 / フォールディング / リガンド結合 / スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ |
研究実績の概要 |
本研究は、リガンド結合を伴うフォールディングについて、反応に関わる分子種や遷移状態の安定性と構造に基づいて、反応を駆動する物理的相互作用を明らかにすることを目的とする。目的の達成のため、モデル蛋白質スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)を用いて、SNaseの特異的リガンドである基質アナログadenosine-3',5'-diphosphate (prAp)によって引き起こされるフォールディングを実験とモデル解析によって調べる。令和2年度には、フォールディングの経路が、prAp濃度依存的にConformational selection (CS: 構造形成→リガンド結合)からInduced fit (IF: リガンド結合→構造形成)に切り替わることが明らかになり、反応の遷移状態がprApの二つのリン酸基に由来する静電相互作用によって安定化されることが示唆された。
令和2年度に得られた成果に基づき、令和3年度には、prApの二つのリン酸基(5'-並びに3'-リン酸基)のそれぞれが、prApに引き起こされるフォールディングの各段階でどのような役割を果たすのかを原子団レベルの分解能で明らかにすることを目標とした。
目標を達成するために、prApから一つリン酸基を欠損した「prAp変異体」adenosine-5'-monophosphate (prA: prApから3'-リン酸基を欠損)とadenosine-3'-monophosphate (rAp: prApから5'-リン酸基を欠損)について、prApと同様に穏和な変性条件下においてrAp, prAによって引き起こされるSNaseのフォールディングを調べた。IFが支配的な高リガンド濃度において、ほどけた状態は5'-リン酸基とより親和性が高いが、遷移状態は3'-リン酸基が安定化により寄与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度に計画していた研究項目のうち、NMRを用いた実時間フォールディング測定およびその残基レベルの解析、変性状態のNMRスペクトルの帰属および変性状態におけるリガンド・蛋白質複合体の残基レベルの解析は終了した。令和4年度に計画していた研究項目のうち、prApからリン酸基を一つずつ除去したprAおよびrApを用いたフォールディングを調べた。
prAおよびrApによるフォールディングを引き起こすための変性条件の最適化を行い、2.7 M尿素においてprAp, prA, rApおよびアデノシン(リン酸基を含まない「リン酸基二重変異体」)によるフォールディングを観測できることを確認した。prA, rAp存在下でのSNaseの1H-15N NMRスペクトルを天然状態、ほどけた状態について帰属した。蛍光およびNMRによってフォールディングの速度論を実時間で測定した。構造について、フォールディングの各段階におけるSNaseとそれぞれのリン酸基との親和性を残基レベルで明らかにした。安定性について、prApを「野生型」、prA / rApを「変異体」としたφ値解析により、遷移状態におけるそれぞれのリン酸基の安定性への寄与を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に得られた成果に基づき、令和3年度においてはprApの各リン酸基のフォールディングにおける役割を原子団レベルで明らかにすることを優先課題とした。prApの「変異体」としてのprAおよびrApについて、リガンドによって引き起こされるSNaseのフォールディングの平衡論と速度論とを構造・安定性の双方の側面から明らかにした。令和4年度は、リガンド結合によるフォールディングの詳細をさらに調べることと研究全体の取りまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、消耗品等の物品を購入した。新型コロナ感染症の拡大に伴い、旅費の支出がなくなった一方、消耗品購入による支出が予想より多かった。「次年度使用額」は令和4年度における研究推進のための主として物品費として使用する計画である。
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