研究課題/領域番号 |
20K06579
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 倫太郎 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (80563840)
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研究分担者 |
杉山 正明 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (10253395)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中性子散乱 / 重水素化 / 混雑環境模倣 |
研究実績の概要 |
2020年度は細胞中の生体高分子の濃度 (>100 mg/mL)に到達することが困難であったため その準備的なタンパク質濃度である準希薄濃度 (~28.5 mg/mL)におけるタンパク質の動態に主に注目した。具体的には、準希薄濃度における会合性タンパク質であるアルファクリスタリンのサブユニット交換の機構解明を重水素化支援中性子散乱法、動的光散乱、分析超遠心測定、数値計算を有機的に組み合わすことにより取り組んだ。その結果、準希薄濃度及びその参照実験として行った準希薄濃度において単量体或いは二量体の解離会合の過程を考慮することでサブユニット交換が進行することを世界に先駆けて解明に成功した。 また、より高タンパク質濃度のアルファクリスタリンを作成するために、培養条件及び精製条件を最適化することにより非重水素化アルファクリスタリンを細胞中の生体高分子の濃度に匹敵する濃度 (~100 mg/mL) まで調整すことに成功した。 更に、今後より高濃度の重水素化タンパク質を作成するにあたり必須である重水素化技術の高度化を確立した。具体的には、重水素化率の高度制御、調整された重水素化タンパク質をハイスループットで評価できる重水水素化率検定法よびそれに付随したソフトウェアの開発、そして、重水素化試料を作成する際の大きな足枷となるコストの低減となる重水再利用に関するプロトコールを確立した。また、それらの技術をweb上で公開し、広く他の研究者に利用できるようにした。今後、特に中性子を用いたタンパク質の溶液散乱研究を行う際の指針となると強く期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度においては、特に予定していた国外の中性子散乱施設での小角中性子散乱実験がCOVID-19の影響により延期或いはキャンセルとなった。そのため、混雑環境下における注目するタンパク質のみの選択的構造解析を行うことが出来なかった。その一方で、研究実績の概要で記載したが目的タンパク質の高濃度化の実現、及び関連する重水素化技術の高度化、更には一般公開などに成功した。今年度も国外の中性子散乱施設での小角中性子散乱実験はCOVID-19の感染状況位より不透明な部分があるが、現地の装置責任者と相談の上リモート測定の可能性も十分に検討する。また、国外での中性子散乱実験が困難である場合は昨年度末に再稼働した東海村研究炉JRR-3に設置されている小角中性子散乱装置の積極的な利用も検討し、本研究課題遂行にあたり支障がなきように戦略的に研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は以下の研究計画を実施する予定である。 (i)2020年度に高度重水素化技術及び目的タンパク質の一つであるアルファクリスタリンの高効率サンプル調整に成功したので、同試料に対して同様にサブユニット交換を重水素化支援中性子小角散乱により調べ、高濃度化がサブユニット交換に及ぼす影を調べる。また、その参照実験としてグリセロール或いはポリエチレングリコールを混雑環境を模倣する媒体として用い、同様にサブユニット交換を行いその差異を調べる。 (ii) 水晶体模倣環境下における標的クリスタリンの構造解析 アルファクリスタリン、ベータクリスタリン、ガンマクリスタリンを個別に調製後、水晶体と同じ濃度・ 組成比にて分子混雑環境 (水晶体模倣環境) を構築し、低濃度標的クリスタリンの静的構造を中性子小角散乱測定により調べる。中性子小角散乱測定及び他の測定手法から得られる結果と分子動力学計算等による最先端の計算科学との組み合わせから、水晶体模倣環境下におけるそれぞれのクリスタリンの詳細構造を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度においてはCOVID-19の感染拡大に伴い想定していた国外施設への出張実験のキャンセルがあった。また、国内での緊急事態宣言により所属研究室での立ち入りも一時的に制限されたため、旅費及び物品費を使い切ることが出来なかった。今年度も海外での出張実験は制限される可能性があるので、リモート実験或いは国内で実施可能な実験はそちらに代替する予定である。
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