研究課題/領域番号 |
20K06586
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
臼倉 治郎 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 名誉教授 (30143415)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アンルーフ法 / unroofing / 細胞骨格 / クライオ電子顕微鏡 / フリーズエッチング法 / 原子間力顕微鏡 / アクチン線維 / 小胞体 |
研究実績の概要 |
アンルーフ法は当初フリーズエッチング電顕にて観察するための方法として開発された。今のところ培養細胞にしか有効ではないが、背側の細胞膜の一部または全部を除去し、可溶性細胞質(cell sap)を流出させ、細胞膜の細胞質側表面構造や膜細胞骨格を観察するための標本作製法である。この方法を改良し、再現性を向上させた後、クライオ電顕法や原子間力顕微鏡への応用を促進した。これらの詳細なプロトコールは昨年度論文として発表した。さらにクライオ電顕の作製法として応用した結果、極めて有用な方法であることがわかった。すなわち、これまではアンルーフ法は膜を完全に剥がすことにより、細胞内の構造が可視化できると考えていたが、凍結細胞を-100℃の低温、高真空下において氷の昇華を促進することにより、数ミクロンにもおよぶ細胞でも内部を可視化できることがわかった。細胞骨格のみならず核やミトコンドリア、小胞体などのオルガネラも観察できた。いわば、細胞の透明化が起こっていることになる。電子線が数ミクロンという試料の厚さ(細胞質)を通過することは一般的には考えにくい。何故画像化ができるのかという疑問が生じる。これは細胞液(cell sap)の多くがバッファーと置換されているために起こると考えるのが妥当である。アンルーフ実験の際、細胞膜のごく一部が剥がされるか、あるいは小さな孔があいたことにより、ここから細胞液が流出し、換わりにバッファーが流入したと考えられる。バッファーが凍結した氷は昇華により薄くなり電子線が透過できるようになり、像が形成されることになる。このようなアンルーフをマイクロアンルーフと呼び、これらの実験結果はすでに纏め上げ論文として書き上げたので、近々投稿し出版する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験の結果、および研究の論文加藤は順調に運んでおり、毎年度1回以上の論文発表はペースである。しかし、コロナ禍の中、学会等の開催が大規模には行われず、多くの研究者間での質疑応答ができない状態で会える。on line 学会では限界がある。このため、本研究プロジェクトの目的の一つであるアンルーフ法の普及については思うように進まない。論文の発表とともに海外を含め多くの研究者と交わることが普及につながると考えると、昨年度は十分とはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
すでに書き終えた論文を年内に出版し、アンルーフ法についての普及を図る。コロナ禍のon line学会発表では質疑応答などが容易ではなく、方法論についての研究発表は効果的ではない。このため春の学会発表はパスしたが、今秋以降はリアルな学会が開催される予定なので、参加して質疑討論をすることを考えている。また、前述のようにアンルーフ法は細胞膜の細胞質側表面構造を観察することができることから、ウイルスの細胞内への侵入から、増殖、脱出など感染過程のイメージングにも有用であると考え、ウイルスの感染研究にも応用したところ、極めてユニークな結果を得ることができた。この方面の研究も進め、論文とする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ禍のため、国内外の学会、研究集会がないか、on lineで行われたため、旅費、参加費の支出がなく、また論文の完成が4月にずれ込んだため、出版に関わる費用もかからなかったため。その分2021年度で支出する予定である。特に論文の出版費が昨年度から本年度にずれ込んでいるが、すでに論文は書き終えているので、早々に支出する予定である。
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