研究課題
アンルーフ法は当初フリーズエッチング電顕にて観察するための方法として開発された。今のところ培養細胞にしか有効ではないが、背側の細胞膜の一部または全部を除去し、可溶性細胞質(cell sap)を流出させ、細胞膜の細胞質側表面構造や膜細胞骨格を観察するための標本作製法である。この方法を改良し、再現性を向上させた後、クライオ電顕法や原子間力顕微鏡への応用を促進した。これらの詳細なプロトコールは2020年度論文として発表した。さらにクライオ電顕の作製法として応用した結果、極めて有用な方法であることがわかった。すなわち、これまではアンルーフ法は膜を完全に剥がすことにより、細胞内の構造が可視化できると考えていたが、凍結細胞を-100℃の低温、高真空下において氷の昇華を促進することにより、数ミクロンにもおよぶ細胞でも内部を可視化できることがわかった。細胞骨格のみならず核やミトコンドリア、小胞体などのオルガネラも観察できた。電子線が数ミクロンという試料の厚さ(細胞質)を通過することは一般的には考えにくい。何故画像化ができるのかという疑問が生じる。アンルーフの際、細胞膜のごく一部が剥がされるか、あるいは小さな孔があいたことにより、ここから細胞液が流出し、周囲のバッファー液が流入したと考えられる。バッファー流入により薄められた細胞液からなるた氷は容易に昇華し、電子線が透過できるようになり、像が形成されるのだと思われる。このようなアンルーフをマイクロアンルーフと呼び、これらの実験結果は2021年11月に論文として、発表した。また、現在行っているA型インフルエンザの感染過程の解明の研究において、アンルーフは極めて有用な試料作製法であることがわかった。増殖した子孫vRNPが細胞膜の細胞質側表面に集結し、packagingされる様子を初めて形態学的に捉えた。現在これらの結果を論文に纏めている。
2: おおむね順調に進展している
研究の論文化は順調に運んでおり、毎年度1回以上の論文発表ペースである。しかし、コロナ禍の中、国際会議への参加は難しく、グローバルな質疑応答ができない状態である。また、本研究プロジェなクトの目的の一つであるアンルーフ法の普及についてであるが、実技指導は思うように進まない。しかし、2022年度以降は少しずつリアルな学会の開催や渡航制限も緩和されるので、徐々に進展すると思われる。論文の発表は今後ともアクティブ行う。
現在執筆中のA型インフルエンザの感染過程の解明の研究の論文を年内に出版し、アンルーフ法が重要な試料作製法であることを示す。コロナ禍のバーチャルでの学会発表では質疑応答などが容易ではなく、方法論についての研究発表は効果的ではない。2022年度は5月に対面形式の顕微鏡学会が開催される予定なので、研究発表を予定している。
実際の実験と論文化には時間的に半年ほどのずれが生じる。現在、執筆している論文は2021年度に行った研究結果である。従って、論文の出版に関わる費用は次年度2022年度で支出することになる。最近、論文のOpen accessでの出版には多額の費用がかかる。NatureではOA化の費用が120万以上かかる。したがって、次年度の使用計画としては全て論文の出版費用とする予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
膜
巻: 47 ページ: 2-9
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