本研究は細胞膜の裏打ち構造を電顕やAFMで観察するための試料作製法であるアンルーフ法の更なる改良と普及を目指して、2020年度から3年間の予定で開始されたが、2020年の後半より、コロナウイルス感染症が蔓延し、学会の学術講演会の開催がオンライン開催となり、アンルーフ法の普及活動は不十分であった。そこで、2022年度末に2023年度1年間の期間延長を行い、学会活動を通して普及活動を続けた。アンルーフ法(unroofing method)は細胞膜や細胞質の一部を除去し、細胞膜の細胞質側表面を露出させるユニークな標本作製法である。研究期間中に三つのアンルーフ法を開発改良し、誰でもわかりやすく使えるようにした。腹側の細胞膜の細胞質側表面を観察するためには超音波による方法が一般的で、先端径2ー3mmのプローブ型の装置を用い、出力を1W以下にすることで良い結果が得られた。また、背側の細胞膜の細胞質側表面を観察するためにはアルシアンブルーなどで接着性を高めたカバーガラス又はグリッドを細胞に表面に接着させ剥ぎ取る接着法(adhesion unroofing)を改良し、採取性を高めた。溶液中で超音波を発生させると気泡が生じるが、0.5Wの強度でパルスで細胞膜に当てると、小さな孔があくことが分かった。この場合、細胞内構造を保ったまま細胞質の可用性物質を取り除けるので、クライオ顕微鏡による全載標本の観察が可能である。本研究はコロナウイルス感染症の蔓延中に行われたが、奇しくもウイルスの感染サイクルの形態学的研究に役立つ事が分かった。実際、A型インフルエンザのゲノムのパケージングが細胞膜の細胞質側表面で膜細胞骨格であるアクトミオシン線維で行われる事が初めてイメージングにより明らかとなった(投稿中)。
|