研究実績の概要 |
申請者は、細胞内1分子イメージングにより、転写阻害剤処理がゲノムクロマチンの動きを核全体においてグローバルに上昇させることを見出してきた(Nozaki, 2017; Nagashima, 2019)。この結果をもとに、作業仮説:「巨大な転写装置クラスターをハブとしたグローバルなクロマチンネットワークが存在し、これを介してクロマチン動態と転写が密接に制御されている」(Nagashima, 2019)を立てた。本研究では、超解像顕微鏡技術、単一ヌクレオソームイメージング、計算機シミュレーションを組み合わせ、(1)転写クラスターの動態とそのクロマチン構造や動態への影響、(2)転写クラスターとクロマチンの連結機構、(3)クロマチンネットワークの実態を調べ、仮説を検証する。これにより、生きた細胞でのクロマチン動態と転写制御の関係を明らかにし、遺伝子発現制御機構に迫ることを目的とする。 今年度は(1)転写クラスターの動態とそのクロマチン構造や動態への影響の解析に取り組んだ。転写クラスターの構成因子であるヒトの転写メディエーターのサブユニットMED14に緑色蛍光タンパク質mCloverを融合させ、これを恒常的に発現する細胞株を樹立した。この細胞株中のMED14クラスターの数、大きさ、空間分布やその時間変化を解析し、転写クラスターの動態の基本情報を得た。MED14は相分離駆動の液滴を形成することが報告されている。そこで液滴を溶かす作用を持つ1,6-ヘキサンジオール(1,6-HD)により転写クラスターを分散させ、クロマチンの動きを調べた。その結果、MED14クラスターは消失したが、クロマチンの動きは抑制された。これは予想に反する結果であったが、相分離生物学分野で多用されている1,6-HDが細胞内のDNAを凝集させる作用を持つことを示す成果となった(Itoh, 2021)。
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