研究課題/領域番号 |
20K06594
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
日比野 佳代 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 助教 (40435673)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノムDNA / RNA転写 / 1分子イメージング / ヌクレオソーム / クロマチン動態 |
研究実績の概要 |
申請者は、細胞内1分子イメージングにより、転写阻害剤処理がゲノムクロマチンの動きを核全体においてグローバルに上昇させることを見出してきた(Nozaki, 2017; Nagashima, 2019)。この結果をもとに、作業仮説:「巨大な転写装置クラスターをハブとしたグローバルなクロマチンネットワークが存在し、これを介してクロマチン動態と転写が密接に制御されている」(Nagashima, 2019)を立てた。本研究では、超解像顕微鏡技術、単一ヌクレオソームイメージング、計算機シミュレーションを組み合わせ、(1)転写クラスターの動態とそのクロマチン構造や動態への影響、(2)転写クラスターとクロマチンの連結機構、(3)クロマチンネットワークの実態を調べ、仮説を検証する。これにより、生きた細胞でのクロマチン動態と転写制御の関係を明らかにし、遺伝子発現制御機構に迫ることを目的とする。 今年度は、転写クラスターの構成因子であるcoactivatorや転写反応を担うRNAPIIを、結合阻害剤や分解誘導剤で転写装置から解離させ、その後、間期クロマチンの動態を単一ヌクレオソーム計測した。その結果は上述の仮説を強く支持した。 さらに、転写クラスターの構成因子であるメディエータ(MED14)を短時間で分解除去し、その役割を解析可能なAID法を組み込んだ細胞株を樹立した。樹立株では、ヒトHCT116細胞に、Auxinの添加で分解除去を誘導するmAIDタグと蛍光タンパク質mCloverを融合したMED14、分解を担うOsTIR1、単一ヌクレオソームイメージングのためのヒストンH2B-Halo、以上3者を導入したが、その際、融合タンパク質の機能やAuxinによる短時間除去を細胞生物学的手法で検証する必要があった。そこで、光学顕微鏡を拡張し、効率的な細胞株のスクリーニング環境を整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症拡大防止に伴う物品の入手難、特に半導体不足による納品遅れなどのため、当初の予定とは異なる点があったが、代替機器の利用や実験方法や順序の微修正により、研究はおおむね順調に進展している
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今後の研究の推進方策 |
転写クラスターとクロマチン間の連結因子候補として、転写のイニシエーションを担うリン酸化型RNAPIIが有力である。このRNAPIIは転写クラスターの構成因子であり、さらに、クロマチンに安定結合するからである。このリン酸化を特異的に阻害するDRBなどで処理した細胞において、クロマチンの動態と構造、および、転写クラスターの動態を計測する。また、転写伸長に必須のリン酸化部位を特異的に阻害する薬剤も試す。もし、仮説が正しければ、転写装置ハブとクロマチンの連結を阻害する細胞操作により、クロマチン動態は上昇するが、転写クラスターの数や大きさはあまり変化しないはずである。これらの解析を通して、目的(2)転写クラスターとクロマチンの連結機構に迫る。 近年、分裂期染色体において姉妹染色分体の接着を担うコヒーシンが、間期クロマチンにおいてエンハンサーとプロモータの相互作用を媒介する転写因子のような機能を持つことが見出されている。また、分裂期染色体の凝縮に必須のコンデンシンが、G2期においてもクロマチンの組織化に寄与することが報告されている。そこで、クロマチンのネットワーク化因子として、転写クラスターに加え、コヒーシン、コンデンシンの寄与も評価し、転写クラスターとの機能関連を調べる。上述のAID法により、間期細胞においてこれらの因子を短時間分解除去し、その後、クロマチン動態を単一ヌクレオソーム計測する。これらの因子がクロマチンのネットワーク化に寄与していれば、因子の分解除去によりクロマチン動態は上昇するはずである。転写因子の機能側面を持つコヒーシンに関しては、除去前後に転写クラスターの数や大きさについて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
残高が少額のため繰り越した。次年度予算と合算し、より有効に利用する予定である。
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