今年度は,近年,転写因子としての働きを提案されているコヒーシンに注目した.コヒーシンは転写活性化に重要なプロモーター/エンハンサー間の相互作用に関与している.そこで,生きたヒト細胞から,コヒーシンを短時間で分解除去し,クロマチン動態への影響をしらべた.標的タンパク質の短時間分解除去には,auxin-inducible degron法 (AID法) を用いた.コヒーシンのサブユニットRad21にmAIDタグ(植物ホルモンAuxinの添加で標的タンパク質の分解除去を誘導するため)と蛍光タンパク質mClover(標的タンパク質の分解除去をモニターするため)を融合し,さらに分解を担うOsTIR1,単一ヌクレオソームイメージングのためのヒストンH2B-Halo,以上3者を導入したHCT116細胞株を樹立した. 作成した細胞株を用いて,転写が盛んに起きている間期細胞からコヒーシンを分解除去したところ,クロマチンの動きが上昇した.次に,転写反応の実態を担うRNAポリメラーゼII (RNAPII) を不活化分解する薬剤;α-amanitineで細胞を処理すると,こちらもクロマチンの動きが上昇した.最後に,コヒーシンの分解除去とα-amanitineによるRNAPIIの不活化分解処理を同時に行うと,それぞれ個別に除去した時と比べ,加算的変化では説明できないほどクロマチンの動きが上昇した.これらの結果は,RNAPIIとコヒーシンはそれぞれクロマチンを束縛し,ネットワーク化を通してクロマチンの組織化や局所動態の安定化に相乗的に寄与していることを示唆している.そして,この相乗効果は効率的で安定なRNA転写制御を実現していると考えられる.
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