研究課題/領域番号 |
20K06596
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 薫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20548507)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | piRNA / PIWI / ヘテロクロマチン / 生殖細胞 / トランスポゾン |
研究実績の概要 |
piRNAは生殖組織特異的に産生される小分子RNAであり、トランスポゾンの発現を負に制御することで、それらのゲノムへの侵略を防ぎ、生殖ゲノムの品質管理を担う。piRNA産生に異常が生じると不稔となり、種の保存は成立しなくなる。piRNAは、piRNAクラスターと呼ばれるトランスポゾン断片が集積したゲノム領域から転写される。ショウジョウバエ卵巣では特に、Dual-strandクラスターと呼ばれるpiRNAクラスターが活性化しており、そのゲノム領域はヘテロクロマチンヒストンマークH3K9me3に富むが、HP1aパラログであるRhiタンパク質が相互作用することで転写が活性化されている。しかし、その転写活性化の作用機序は不明な点が多く、さらに、そもそもどのようにRhiがDual-strandクラスターのH3K9me3を特異的に認識しているのかはまったく明らかになっていない。本研究では、それらの仕組みを明らかにするために、Rhiが発現してない培養細胞を用いたゼロベースでのゲノム条件下においてRhiおよび核内piRNA因子群を異所的に発現させた人工的な実験系を用いて、①Rhi相互作用ゲノム部位の同定、および、②Dual-strandクラスターの転写活性化に最低限必要な遺伝子セットの同定、③Rhi相互作用ゲノム部位のクロマチン状態変化の解明を行う。以下に、本研究の進捗と今後の予定について述べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①Rhi相互作用ゲノム部位の同定 Rhiが発現してない培養細胞OSCを用いて、Rhiタンパク質をプラスミドトランスフェクションにより強制発現させ、クロマチン免疫沈降(ChIP)を行った結果、明確なピーク(シグナル)が得られなった。また、同一サンプルにおいて、転写抑制型ヒストン修飾であるH3K9me3 ChIPを行ったところ、本来ピークがみられるようなゲノム領域でのシグナル強度が減少するという結果が得られた。これらの結果から、プラスミドトランスフェクションでのChIPではシグナル強度の減少し、解析が困難になると考えられた。同様の事例が見当たらないため、原因については現在考察中である。 ②Dual-strandクラスターの転写活性化に最低限必要な遺伝子セットの同定 Dual-strandクラスターの発現には、Rhi、Del、CuffのRDC複合体に加えて、Moon/TRF2/TFIIA-Sが関与するとされる。OSCと卵巣のRNA-seqデータを比較したところ、OSCにおいてRhiとMoonの発現がほとんどみられず、それ以外のタンパク質については卵巣と同程度に発現していることが分かった。また、Rhiは卵巣、OSCにおいて核内顆粒状局在を示すが、Delを共発現させるとよりシャープな顆粒が形成されたことから、RhiとMoon に加えて、Delを共発現させることでDual-strandクラスターの発現がみられるようになると考えられる。実際に、これらのタンパク質をプラスミドトランスフェクションを用いて強制発現させたところ、Dual-strandクラスターの発現上昇が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
①Rhi相互作用ゲノム部位の同定 RhiのプラスミドトランスフェクションしたOSCでのChIPでは、明確なピークが得られなかったことと、ヒストン修飾など他のChIP解析の効率にも負の効果を及ぼす可能性が高く、プラスミドトランスフェクション以外の方法を検討したいと考えている。具体的には、OSCにおいて、Rhiを恒常的に発現する安定発現細胞株を作成する。当研究室のこれまでの研究から、安定発現株の樹立方法が確立されており、この手法を用いて安定細胞株を作成する予定である。作成した安定発現株を用いて、RhiのChIP解析を行い、Rhi相互作用ゲノム部位の同定を行う予定である。 ②Dual-strandクラスターの転写活性化に最低限必要な遺伝子セットの同定 OSCにおいて、Rhi、Del、Moonを共発現させたところ、Dual-strandクラスターの発現上昇が観察されている。まず、これ以外のCuffなどのタンパク質を共発現させた場合の発現上昇の度合いを定量的に解析する。発現レベルがRhi、Del、Moonのみの場合と有意差がない場合、Rhi、Del、Moon のそれぞれの組み合わせに注意しながら、発現レベルを定量的に解析し、必要な因子を評価する。
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