研究課題
新規のクロマチンユニットであるH3H4オクタソームについては、一年目にディスク構造の開き方の異なる2つのコンフォメーションそれぞれの電子顕微鏡構造を3.6 Å、3.9 Åの分解能で解明することができたが、生体内での存在は検証されていない状況だった。昨年度は、国際共同研究によって、H3H4オクタソーム特異的な相互作用を出芽酵母内で検出することに成功し、H3H4オクタソームが生体内に存在することを初めて示した。本研究で行った生体内部位特異的タンパク質間相互作用架橋実験 (VivosX)では、通常型のヌクレオソームでは遠位に配置し、H3H4オクタソーム中でのみ近接したアミノ酸として、ディスク面で向かい合う、H3のαN上に存在するR49を選定し、システイン変異を導入した。我々は、このR49C変異をゲノムシャッフリング法で出芽酵母に導入し、disulfide exchangerである4-DPSで処理した細胞をZirconia beadsでホモジェナイズして調製した核抽出液に対して、H3抗体を用いたwesternブロッティングを行った。その結果、非還元状態でH3H4オクタソームに由来するH3 R49Cダイマーが検出された。この結果は、試験管内再構成系でも検証され、H3H4オクタソーム特異的にH3 R49Cダイマーが形成されることが確認され、H3H4オクタソームが生体内に存在することが裏付けられた。これらの成果は、プレプリント・サーバーbioRxivにて発表し、原著論文に関しては現在投稿中である。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度は、出芽酵母を用いたVivosX解析を通じて、H3H4オクタソーム特異的な相互作用を生体内で検出することに成功し、その成果を構造解析の結果と合わせてプレプリント・サーバーbioRxivに発表した点で、研究課題が大きく進展したと言える。一年目に実施した電子顕微鏡解析を通じて、H3H4オクタソームはH2A、H2B非存在下でも通常型のヌクレオソームのようにヒストン八量体を形成することが明らかになった。また、電子顕微鏡解析で得られたopenとclosedの2つのコンフォメーションを通常型のヌクレオソームと比較すると、閉じた構造でも通常型のヌクレオソームよりも20 Åもディスクが開いていることが明らかになり、もしH3H4オクタソームがゲノム上に存在すれば、クロマチン構造に柔軟性をもたらすことが予想された。昨年度は、このH3H4オクタソームの生体内での存在を検証するために、Stony Brook大学のEd Luk博士との共同研究を行った。Luk博士は、出芽酵母のヒストン遺伝子にシステイン変異を導入して核抽出を行い、非還元状態での免疫沈降の後、ジスルフィド結合を形成したダイマーを検出することで、複合体中の相互作用を検出することができる(VivosX)。本研究では、通常型のヌクレオソームでは遠位に配置し、H3H4オクタソーム構造中で近接するアミノ酸として、ディスク面で向かい合うH3のR49に注目して変異を導入し、H3 R49Cダイマーのバンドを検出することに成功した。この結果は、試験管内再構成系でも検証され、H3 R49C変異を導入したヌクレオソームでは、H3 R49Cダイマーが検出されない一方で、H3H4オクタソーム特異的にダイマーが検出された。これまでのゲノム解析では、H3H4オクタソームの存在は知られていなかったが、本研究成果で初めて、その存在を示すことができた。
今後は、現在投稿中の原著論文のリバイス実験を進めるとともに、H3H4オクタソームの機能解析を進めて行きたいと考えている。まず、H3H4オクタソームのゲノム局在位置の特定を試みる。従来のMNase Seq法では、細胞核をエンドヌクレアーゼであるMNaseで処理することで、ヌクレオソーム画分を精製しているが、我々は予備実験を通じて、試験管内再構成したH3H4オクタソームを特定の条件でMNase消化すると特異的なDNAフラグメントが生成されることを確認している。今後は、HeLa細胞核に対して、同様のDNA抽出を行い、H3H4オクタソームを構成するDNAのライブラリー作製、および次世代シークエンス解析を行っていきたいと考えている。また、H3H4オクタソーム・ノックアウト細胞を作成することで、H3H4オクタソームがゲノム構造に与える影響も解析したいと考えている。H3H4オクタソームには通常のヌクレオソームに存在しないH4-H4相互作用があるため、ヌクレオソーム形成に必要なH4-H2Bヒストン相互作用は邪魔しないがH4-H4ヒストン相互作用のみを阻害するような変異体を構築できる可能性がある。作成したH3H4オクタソーム・ノックアウト細胞については、H4にGEFを導入してFRAP解析を行うことで、H3H4オクタソームのゲノム取り込み効率の変化等を観察することができると考えている。またこれと並行して、引き続きH3H4オクタソームの結合因子の探索も行う。ビオチン化したDNAを用いてH3H4オクタソームを再構成し、ストレプトアビジン担体と反応させることで、ヌクレオソームカラムを作成し、HeLa細胞の核抽出液から結合因子をブルダウン精製する予定である。カラムに結合した結合因子の候補は尿素バッファーにより溶出し、プロテアーゼ処理を行った後、LC-MS/MS質量分析法により網羅的に同定する。
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bioRxiv
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10.1101/2021.10.27.466091