研究課題/領域番号 |
20K06600
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯田 哲史 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (60391851)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | rDNA / SIR2 / コピー数 / UAF / 転写制御 / ゲノム安定性維持 / 酵母 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、「細胞がどのようにゲノム異常を感知し、その異常から回復することで、ゲノムの恒常性を保つのか」を明らかにするため、rDNAコピー数維持に関するSIR2遺伝子発現を介した新規の細胞制御機構解明を行なっている。研究課題(I)「SIR2プロモーター解析」では、SIR2プロモーターの部分欠損変異を多数構築し、rDNAのコピー数に応答した抑制に必要な配列候補を20塩基まで絞り込んだ。この配列をレポーター遺伝子上流に融合したところ、rDNAコピー数依存的なレポーター遺伝子の発現抑制を確認出来たことから、この20塩基を介してrDNAコピー数感知機構が作用している事がわかった。本年度は、関連内容の研究発表を日本分子生物学会にてワークショップを開催し行い、日本遺伝学会年会におけるシンポジウムでも発表承認を受けた。また、雑誌「化学と生物」においても、rDNAコピー数維持に関する制御機構の総説を発表した。 研究課題(II)「UAFを介したRNAポリメラーゼII転写遺伝子抑制の分子機構」の項目「rDNAコピー数低下時の、SIR2遺伝子の転写抑制と核内配置」では、rDNAコピー数に関係なく、SIR2の核内配置に変化は無いことを確認した。また、UAFを介した転写抑制機構関連因子を探索するために、rDNA低コピー株を用いて、SIR2の転写抑制が解除される変異体のスクリーニングを行い、現在多数の変異体を取得しており、制御因子の同定を行なっている。 本年度は、rDNAのコピー数制御を応用した遺伝子発現ツールの開発も本研究課題に関連する研究として行い、論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究課題(I)のSIR2プロモーター解析と、研究課題(II)-1のSIR2遺伝子座核内配置の解析が完了した他、研究課題(III)における「SIR2遺伝子領域から発現する機能性DNA断片がSIR2遺伝子発現を制御する可能性」について検討を行い、機能性DNA断片がSIR2遺伝子発現の制御に関与していない可能性が高いことを明らかにした。 研究課題(II)-2のRNAポリメラーゼIによる、SIR2遺伝子転写抑制の可能性については、RPA135遺伝子破壊株を作成し、SIR2遺伝子の発現への関与を検討したが、コピー数に応答した発現抑制の解除は見られず、RNAポリメラーゼIを介した制御によってSIR2が制御されている可能性は極めて低いと考えられた。 研究課題(III)遂行の過程で、機能性DNAに作用するタンパク質を同定しており、「機能性DNA断片の研究」を遂行する際の重要な知見を得た。また、機能性DNAの発現量は、培地成分によって大きく変動する可能性を見出しており、rDNAのコピー数制御とは関係なく制御されている別の機構によって制御されている可能性が高い。 本年度は、研究計画の遂行は順調に進んだが、本来の目的である「rDNAコピー数に応答したSIR2遺伝子発現制御機構の解明」に迫る結果があまり得られなかった。来年度は、今後の方策に盛り込んだ修正点などにしたがって研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究推進方策として、rDNAコピー数に応答してSIR2遺伝子発現を抑制する因子の変異体スクリーニングを中心に行い、「rDNAコピー数に応答したSIR2遺伝子発現制御機構の解明」に迫ることにする。現在までに、UAFを過剰発現させてSIR2を強制発現抑制した条件で、転写抑制解除を示す多数の顕性変異体を取得しており、その原因変異遺伝子の同定を進めることで、UAFの下流で作用する因子を探索する。また、以前UAFを得た変異体スクリーニングと同条件でスクリーニングを行い、弱い表現型を示すクローンについて解析を進めたところ、複数の制御因子候補が存在する可能性を見出した。現在、数百の変異体を取得しており、網羅的に変異を同定することで、UAFに関連した制御因子を取得できる可能性が高い。そこで、来年度では、SIR2遺伝子抑制因子の候補から、UAFに依存して作用するものを選抜し、その機能を明らかにすることで、「rDNAコピー数に応答したSIR2遺伝子発現制御機構の解明」を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナウイルス感染防止策などの対応により、実際の研究の消耗品、旅費などの支出が大きく減ったため、次年度使用額が生じた。研究推進方策の変更などにより、来年度にノートブックコンピューターに260千円、残りを変異体の変異同定に使用するnanoporeシークエンサーとその関連試薬の購入に充てる。
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