研究課題/領域番号 |
20K06605
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
冨川 順子 東京大学, 生命科学ネットワーク, 特任助教 (80534990)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核内ゲノム高次構造 / 3D DNA-FISH |
研究実績の概要 |
本研究では、マウスをモデルとして検出された2細胞期胚(全能性細胞)特異的な核内高次構造が全能性細胞において、またその後の発生においてどのような役割を担っているのか検証することを目的としている。そのため、(1)生細胞蛍光イメージング法による核内ゲノム動態の観察、(2)2細胞期胚特異的な核内高次構造形成に寄与しているタンパク質の同定とその生理機能解析を進めている。(1)に関しては当初、リボソームDNAを基点として他のゲノム領域が集結していると考え、dCas9-mCherry mRNAを標的配列に対するgRNAとともに受精卵にインジェクションし、2細胞期胚においてmCherryのシグナルの検出を試みたが、特異的なシグナルを得ることはできなかった。そこで可視化手段を3D DNA-FISH法に変更し、各染色体間でのインタラクションの可視化を試みた。その結果、ハブ状の17番染色体と11番染色体の領域との相互作用がみとめられた。他の領域についても現在解析を進めているが、基点となっているのがリボソームDNAではなく、ハブとなっていた17番染色体である可能性が強く示唆される結果となった。(2)についてはCux1の関与が示唆されたため、ノックアウトマウスを作製したところ、胎生致死となったことから、どの段階で致死となっているのか発生段階を遡って検証した。その結果、胎生9.5日の時点までは発生しており、その後神経管の形成がうまくいかずに致死となっていることがわかった。したがって、全能性獲得に関わる因子ではないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
Hi-Cの結果、2細胞期胚特異的に見られた核内ゲノム高次構造を可視化するとともに、その構造形成に関わる因子の同定を目指して(1)生細胞蛍光イメージング法による核内ゲノム動態の観察、(2)2C特異的な核内高次構造形成に寄与しているタンパク質の同定とその生理機能解析を行う予定であったが、(1)については手法を変え現在進行中の段階である。しかし(2)についてはCux1の関与が否定されたことから、新たな因子の探索を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
興味深いのは、近年、染色体間相互作用によるゲノム高次構造の形成に関わる因子としてlong non-coding RNAs(lncRNAs)の存在が強く示唆されている点である。そこで、本研究においてもlncRNAに焦点をあて、マルチガイドCRISPRiによるゲノムワイドなスクリーニングを試みる。スクリーニングには、2細胞期胚と類似した特徴を有する細胞2-cell like cell(2CLC)の出現が確認できるように、2細胞期胚特異的プロモーターにGFPを結合させた配列をノックインしたES細胞株を樹立し用いる。FACSにより2CLCをソーティングし、2CLCの出現率が低下した(全能性様細胞が減少した)場合には、どのlncRNAが関わっているのか、回収した2CLCからRNAを抽出し、プールしたsgRNAの標的lncRNAの発現状態を定量的RT-PCRにより解析することでlncRNAを同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中で近畿大学から東京大学への異動があったため、新しい研究室で実験系を立ち上げるのに時間を要することとなり、実験の遅れとともに残額が生じた。残額は、昨年度に引き続いて行う3D DNA-FISHプローブ作成のためのDNAオリゴプール購入か、新たに立ち上げる予定のCRISPRiに用いるKRAB-dCas9およびsgRNAの購入にあてる予定である。
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