代謝酵素複合体とは、ある代謝系を構成する酵素群が細胞内で形成する複合体である。多くの生物の代謝の根幹として機能するTCA回路においても代謝酵素複合体が形成されることが知られているが、その進化的起源は明らかになっていない。 TCA回路を逆回転させた二酸化炭素固定経路、reductive TCA (rTCA)回路はTCA回路の祖先型代謝であると推定され、生物普遍的な中央代謝系であるTCA回路の進化過程全貌を理解する上でrTCA回路の理解が不可欠である。rTCA回路における複合体形成の有無やその機能を明らかにすることを目的に、本研究課題を進めた。 本研究では、rTCA回路を有する生物種の中でも、Aquficota門というバクテリアドメインの中でももっとも古くに他から分岐した系統に属する微生物Hydrogenobacter thermophilus TK-6を対象として、代謝複合体形成についての検討を行った。本菌の細胞破砕液のゲル濾過分画解析や、アフィニティタグを付与して異種発現させたrTCA回路中酵素のin vitro酵素間相互作用の検出、またタンパク質間架橋処理を施したBlue-Nateve PAGEの分離泳動やWestern blotting検出などにより、酵素間での複合体の有無を検証した。本研究では、TCA回路で報告例のあるような強固な酵素間結合は検出されず、このように強固な複合体形成はrTCA回路からの分岐後に独自進化したものである可能性が示唆された。その一方で、異種発現酵素を用いたin vitro解析では他酵素との弱いながらも結合性を示したものもあり、条件によってはタンパク質間結合性が起こる可能性も示唆された。近年研究の進んでいる液液相分離など、微弱なタンパク質間相互作用に着目した研究手法によりさらなる解明につながる結果が得られたと言える。
|