研究課題/領域番号 |
20K06616
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
春田 奈美 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (70381671)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微小管 / C.elegans |
研究実績の概要 |
本研究では、線虫C. elegansの生殖線内の生殖細胞系列の発達における微小管動態をモデルに組織特異的な微小管ネットワークの構築と制御を明らかにしようとしている。我々は、主要な微小管制御因子で微小管形成核であるγ-チューブリン複合体である(γ-TuC)の線虫の新たな構成因子であるGTAP-1, GTAP-2を同定し、中心体および生殖腺での役割についての解析を進めてきた。特にgtap-1変異体は、シンシチウム構造をもつ生殖腺の構造異常の表現型がみられ、産卵数の低下および胚生致死率が上昇することを見出していた。 そこで本年度は、まずgtap-1変異体の生殖腺異常が生殖腺形成のどの段階から生じたのか調べるために、γ-チューブリン、微小管および生殖腺膜を蛍光タンパク質で標識した株と変異体株と掛け合わせ、ライブイメージングによって観察を行った。その結果、生殖腺が発達し始めるL4幼虫期の生殖腺構造には大きな差異が認められなかったのに対し、成虫になり生殖線が発達してくると個々の膜構造に囲まれた核の位置や膜構造の撹乱などがみられるようになった。2日目、3日目と日数が経過すると変異体成虫の生殖腺は著しい微小管構造の乱れ、核の脱離、膜構造の崩壊など、老化依存的に表現型が強くなった。この結果は、胚生致死率と産卵数低下が1日目よりも2,3日目の方が顕著であったという結果と一致している。比較的生殖腺構造が保たれているgtap-1変異体1日目成虫においては、γ-チューブリンの生殖腺膜上の局在量が全体的に低下しているものの、シンシチウム構造の外界と接する側の膜では局在が確認できた。一方で、シンシチウム構造内部と核が局在するコンパートメントが接する側の膜ではほとんど局在が確認できなかったことから、GTAP-1が特にこの特定部位へのγ-TuCのリクルートメントに関与している可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、gtap-1, gtap-2変異体の表現型の様々な蛍光ラベル株を用いた詳細な解析と組織特異的なノックダウンを行うための株の作成を主に行ってきた。 1年目の一つ目の目的である生殖腺の発達段階に応じた基本的な観察は概ね完了している。 組織特異的なノックダウンをオーキシン誘導性の標的タンパク質分解法(AID法)を用いて行うために、gtap-1遺伝子の5’末側上流および主要なγ-TuC構成因子であるgip-2の3’末端側下流にそれぞれAIDデグロンをコードする配列をCRISPR-Cas9法でノックインした株を作成した。しかしgip-2遺伝子にノックインした線虫株の生育が著しく遅く、タグをする場所の検討を行っている。またAID法にはTIR1リガーゼの組織特異的な発現が必要だが、生殖腺発現用プロモーター下でTIR1が発現する株を作成し、現在、その分解効率を評価している最中である。よって表現型観察と株の作成は実験計画に沿って概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度もオーキシン誘導性の標的タンパク質分解法(AID法)を行うための株の作成を引き続き行う。TIR1発現株とAIDノックイン株をかけ合わせ、組織および時期特異的なノックダウンを行ったときの微小管動態と生殖腺の形態形成への影響について調べる。 微小管動態は、微小管のシグナルだけでなく、微小管が伸長するプラス端に結合するEBPタンパク質もライブイメージング観察をおこなう。 これまでに観察結果から、gtap-1変異体では老化依存的な表現型の変化と、γ-TuCの部位特異的な局在の変化が観察された。gtap-1変異体でγ-チューブリンの局在が著しく低下したシンシチウム構造内部と核が局在するコンパートメントが接する側の膜には、F-アクチン、ミオシンIIであるNMY-2、アニリン様タンパク質ANI-2、 Rhoタンパク質Cyk-4などが局在しているとの報告がある。そこで、これらのタンパク質とGTAP-1の局在の優位性解析とタンパク質相互作用について解析をすすめることで、γ-TuCが制御する微小管の生殖腺形態形成における役割を明らかにしようとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はCOVID-19により、多くの国際学会および国内学会がオンラインとなったため、研究代表者およびプロジェクトに関わる学生の旅費として計上した予算が使用されなかった。 今年度は、主にDNA合成、消耗品、培地および試薬といった実験を遂行するための物品費と、研究の補助をする学生RA2名の雇用を行うための人件費として使用する計画である。また現在、研究成果を論文として投稿準備をしており、英文校正および投稿費として使用する。
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