研究課題
酵母では致死的な高温(例50℃)を与えられた場合と、亜致死的な高温(例40℃)を持続的に与えられた場合では熱耐性の獲得に必要な因子が異なるため、温度の違いによって熱耐性をもたらす機構が異なることが考えられる。後者の持続的熱ストレスに対して酵母がどのように変化して熱耐性状態を獲得するかを、液胞と核の形態的変化を手掛かりにして明らかにするかが本研究の目的である。これまでに、この熱ストレス後に液胞膜の陥入の亢進が見られ、陥入形成が熱耐性の獲得と関係していることを明らかにした。また、陥入形成に必要な因子として、ESCRT系の分子群とユビキチン、逆に陥入を抑える因子としてAtg8を明らかにした。今年度、Atg8の液胞膜上の結合因子Hfl1の変異株でも、熱ストレス時に液胞の陥入が亢進されることを明らかにした。また、液胞膜タンパク質で膜の曲率を認識するドメインを持つIvy1とAtg8の2重変異株では恒常的に液胞膜陥入が起きるが、Ivy1とHfl1の2重変異株でも同様な形態を示し、さらにSDSなどのストレスに対し脆弱になった。したがって、異常に亢進した液胞膜陥入も細胞に悪影響を与えることがわかり、液胞膜ホメオスタシスの重要性が示唆された。また、持続的熱ストレス後に核膜孔タンパク質の核膜上での偏在が増えることを核膜孔タンパク質Nup49とGFPとの融合タンパク質を発現させる系により見出してきたが、今年度はNup49とより感度の高い蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現させる系を構築した。
3: やや遅れている
緊急事態宣言による実験停止、また制限解除後の共通機器の混雑による使用可能時間の減少により、予定していた実験時間が確保できなかった理由による。それでも年度後半は実験補助員の勤務時間を増やすことができたので可能な範囲の実験をおこなった。
液胞陥入形成の分子的メカニズムの解明のために、さらなる関与因子を同定するために遺伝学的解析を行う。具体的には、ivy1atg8変異株と合成致死になるような変異を同定する。スクリーニングのための系は構築できた。また核膜孔複合体の変化も新しい系を用いて進める。
学会旅費の未使用、試薬の注文が少なかったことによる。実験補助員の雇用時間を増やし、酵母株の作成を進め、スクリーニングや、持続的熱ストレス時の核膜複合体の変化を迅速に進める。
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