研究課題
精子と卵の相互作用で開始される受精現象は、種認識や同種異個体細胞認識など、様々なプロセスで巧妙に制御されている。本研究では、配偶子調製と受精実験の容易な海産無脊椎動物ホヤ(脊索動物)を用いて、受精機構の解明を目指している。すでに我々は、カタユウレイボヤにおいて、精子表面にアスタシン様金属プロテアーゼが存在することをプロテオーム解析で明らかにしている。またその阻害剤GM6001が正常卵の受精を強く阻害するが、卵膜除去卵の受精を阻害しないことから、この酵素が精子の卵膜ライシンの一つとして機能する可能性を指摘した。さらに、この5種の酵素のcDNAクローニングを行い、アミノ酸配列も推定した。今回、これらの酵素は、いずれもN末端付近に1回膜貫通ドメインを有する2型膜結合酵素であることを突き止めた。また、受精実験が容易で配偶子を大量に入手できるマボヤにおいても同様の現象が見られるか否かを検証した。その結果、GM6001はマボヤの正常卵の受精を阻害し、卵膜除去卵の受精を阻害しないこと、またその阻害効果はカタユウレイボヤの受精に対する効果とほぼ同程度であることも示した。GM6001アナログであるTAPI-1とTAPI-2の阻害も検討した。その結果、TAPI-1はGM6001と同程度に受精を強く阻害するがTAPI-2の阻害は弱いことが示され、カタユウレイボヤでも同様であった。マボヤにおける本酵素の機能解析を目的としてペプチド抗体を作製したが、受精阻害効果は見られず、免疫染色においても特異的反応は見られなかった。ノーザンブロット解析を行ったところ、少なくとも6種類の本酵素がマボヤ精巣で発現しており、その内の4種は膜貫通ドメインを有することが示された。この酵素の精製を目指して、まず酵素活性測定法を検討したが、現在その検出には成功していない。今後は、ウエスタン法で酵素を追跡し精製する予定である。
2: おおむね順調に進展している
マボヤ精子金属プロテアーゼの遺伝子モデルの探索と発現解析については、おおむね順調に進展した。当初、酵素の活性測定法を確立し、精製する予定であったが、ザイモグラフィー法や発蛍光基質を用いた方法では検出が困難であることが示された。しかし、ノーザンブロット法により、精巣での発現が6種の遺伝子モデルで確認され、その中でも膜貫通ドメインを有する4種を同定することができた。ペプチド抗体を作製し、受精阻害活性を検討したが、中和活性は検出されなかった。一方、自己非自己認識機構に関する研究に関しては、タンパク質間相互作用の解析を目指して、哺乳類細胞を用いて、s-Themisとv-Themisの発現条件を様々な方法で広範に検討したが、可溶化条件の確立は難航している。
精子金属プロテアーゼの機能解析を目的として、ペプチド抗体を作製したが、受精阻害効果は確認されなかった。また、免疫染色も検討したが、免疫染色に適した抗体ではなかった。一方、ウエスタン法では検出されるバンドが確認されたので、そのバンド成分の検出を指標として、今後酵素の精製を試みる予定である。また、カタユウレイボヤでは、卵膜分解活性も確認されているので、卵膜分解活性を指標として酵素を精製することも検討する。自家不和合性に関する研究では、s-Themisとv-Themisの発現を哺乳類細胞(HEK293)を用いて検討してきた。MBPタグをつけたり、コドンを適正化させて全遺伝子を合成して、可溶化と発現効率の向上を試みたが、培地への分泌はほとんど確認されなかった。今後は、更に種々の条件を検討するとともに、大腸菌での発現と可溶化を再検討したい。その一方で、すでに所有しているs/v-Themisの特定アレルのリコンビナントと同じアレルをもつホヤ個体を探索し、それを強制的に自家受精させて系統を維持することをまず試みる。そして、s/v-Themisのリコンビナントによる自家不和合性阻害条件の検討を行いたい。
当初計画では、s-Themisとv-Themisのタンパク質を大量に発現し、タンパク質相互作用を解析するための予算を計上していたが、可溶化率と発現効率を向上させることが極めて難しく、難航している。したがって、その分の研究予算を次年度に繰越すこととした。
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Science Advances
巻: 7(9) ページ: eabf3621
10.1126/sciadv.abf3621
Scientific Reports
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