(1)卵黄膜ライシンについて:カタユウレイボヤを用いて、精子表面タンパク質のプロテオーム解析を行い、thrombospondin type-1-repeatをもつアスタシン様金属プロテアーゼ(tast)が精子細胞膜に多く存在することを明らかにしている。またこの酵素が卵黄膜CiVC57を分解することで、精子の卵黄膜通過に関与することを報告している。今回、マボヤでも同様の現象が見られるかを検討した。その結果、GM6001やTAPI-1等の金属プロテアーゼ阻害剤はマボヤの受精を強く阻害するが、TAPI-2等のP2'部位に芳香環をもたない阻害剤の受精阻害効果は弱いことが判明した。この阻害スペクトルはカタユウレイボヤでも同様であることが示された。マボヤ精巣で発現している7個のtast遺伝子モデルを同定し、そのうち4個はN末端付近に膜貫通ドメインを有することが示唆された。これらの遺伝子産物が受精に関与するかを検討する目的でペプチド抗体を作製したが、受精を阻害する中和抗体は得られなかった。一方、精子ユビキチン-プロテアソーム系の受精への関与についてマボヤを用いて解析したところ、複数の脱ユビキチン化酵素阻害剤(特にPR619)は強く受精を阻害することが判明し、受精における細胞外での脱ユビキチン化反応の重要性が示唆された。(2)自家不和合性に関して:カタユウレイボヤの自家不和合性に精子s-Themisと卵黄膜v-Themisタンパク質が重要な機能を果たすことを遺伝学的に報告しているが、精子表面にs-Themisタンパク質が存在するという生化学的証拠は得られていなかった。今回、電気泳動法の改良と詳細なLC/MSの解析によりs-Themisタンパク質が精子に確かに存在するという確証を得た。今後はs/v-Themis間のアレル特異的な相互作用に関して立体構造解析をもとに解析することが課題である。
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