研究課題/領域番号 |
20K06622
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 遼介 大阪大学, 理学研究科, 助教 (10743114)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 繊毛 / ダイニン / クラミドモナス / 前集合 / 組み立て / 表現型 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、本年度は繊毛ダイニン前集合(細胞質内における繊毛ダイニンの組み立て/折り畳み機構)への関与が示唆された繊毛ダイニン前集合因子候補(PAF:Pre-Assembly Factor candidate)の解析を継続した。我々の研究室で同定した、単細胞緑藻クラミドモナスにおける2種類のPAFタンパク質(PAFA/PAFB)はパラログ同士であり、相互に配列上で高い相同性を持つが、相同性の低い領域を探索し、それら部分配列を発現する各PAFに特異的なコンストラクトを設計し、大腸菌においてこれら2種類のタンパク質の組換え部分配列の発現に成功した。将来的に、これらのコンストラクトを用いて発現した各PAFの部分配列を生化学的な解析に用いる予定である。また、昨年度までの研究で樹立したクラミドモナスのPAFA/PAFB変異株は、経時的に大きな運動性の変化を示す可能性が示唆されていたが、この現象が他の繊毛ダイニン前集合変異株にも共通する表現型なのかを定量的に測定することを試みた。その結果、我々の研究室で研究を行っている他の複数の繊毛ダイニン前集合変異株でも、繊毛の運動性や繊毛形成率には大きな経時的変化が存在することが明らかとなった。また、PAFA/PAFBと相互作用する可能性が示唆されている別の繊毛ダイニン前集合因子を欠損する変異株の繊毛組成を野生型株と比較したところ、繊毛ダイニンの欠損以外にも様々なタンパク質の蓄積/減少が観察された。この結果は、繊毛ダイニン前集合因子の欠損が、繊毛ダイニン欠損のみならず繊毛形成において他の多くの異常をも引き起こす可能性を示唆している。また、組み立てられる部品としてクラミドモナス繊毛ダイニンサブユニットにも焦点を当て、繊毛内腕ダイニンの中間鎖1種の機能解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、2種類の繊毛ダイニン前集合因子候補(PAFA/PAFB)についての研究を継続した。大腸菌において、単細胞緑藻クラミドモナスのPAFA/PAFBタンパク質の各部分配列を組換え体として発現させることに成功し、今後はこれらの組換えタンパク質を生化学的な実験に用いる予定である。また、クラミドモナスのPAFA/PAFB変異株で観察された時間と共に変化するという興味深い表現型が、他の繊毛ダイニン前集合変異株でも観察されるのかについても検証した。定量的な解析の結果、多くの繊毛ダイニン前集合変異株の運動性及び繊毛形成率に経時的変化が存在することが明らかとなり、この表現型は繊毛ダイニン前集合変異株特有の表現型である可能性が示唆された。同時に、繊毛ダイニン前集合変異株では、繊毛ダイニンのみならず、他の繊毛構成要素にも異常が生じている可能性を示唆する結果を得た。これらに加えて、組み立てられる部品として繊毛内腕ダイニンの中間鎖1種に焦点を当て、当該中間鎖を欠損するクラミドモナス変異株の表現型解析を行った。以上、予期しない興味深い結果を複数現在までに得ることができたが、昨年度より引き続く新型コロナウイルス感染症の影響により、本年度も研究の進行が若干阻害された点は否定できない。来年度は、PAFA/PAFB変異株の経時的に変化する表現型を引き起こす分子基盤の詳細に迫っていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、PAFA/PAFB変異株で観察された運動性及び繊毛形成率の経時的な表現型変化を引き起こす原因について、その分子基盤を探っていきたいと考えている。また、この経時的な表現型変化は多くの繊毛ダイニン前集合変異株にて観察されたことより、これら変異株における繊毛ダイニンの繊毛内量の経時的変化についても調査する予定である。また、予期せず、繊毛ダイニン前集合変異株では繊毛ダイニン以外にも多くの構成要素が蓄積/減少している可能性が示唆されたため、これらの異常についても具体的にどの様な分子(群)が変化しているのかを調査する予定である。また、PAFA/PAFBを含む多くの繊毛ダイニン前集合因子が、互いにどのような機能的関連を持つのかを生化学/遺伝学/構造生物学を利用して調査していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、PAFA/PAFBの部分組換えタンパク質の発現系樹立を行い、またPAFA/PAFB変異株で観察された興味深い表現型が他の繊毛ダイニン前集合変異株にも観察されるのかについての検討、及びPAFA/PAFBに関連を持つと思われる特定の繊毛ダイニン前集合因子変異株の繊毛構成分析を行った。これらの解析に使用した消耗品額が予想より小さかったことが、次年度使用額が生じた一因となっている。来年度は、PAFA/PAFB変異株の生化学/分子生物学実験を活発に行って予算を適正に使用すると共に、申請書に記載の通りPAFA/PAFBタンパク質の機能解析にCryo電子顕微鏡法を使用する予定であるので、当該手法に必要な物品を購入する予定である。
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