研究課題/領域番号 |
20K06628
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
小迫 英尊 徳島大学, 先端酵素学研究所, 教授 (10291171)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | PINK1 / Parkin / パーキンソン病 / ミトコンドリア / プロテオーム / 免疫沈降 / 質量分析 / nanobody |
研究実績の概要 |
家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるセリン/スレオニンキナーゼPINK1とユビキチン連結酵素Parkinが損傷ミトコンドリアをオートファジーによって除去する分子メカニズムの概要が最近明らかになったが、従来の細胞生物学や分子生物学を基盤とする研究からは、その全体像を理解する上で十分な知見が得られていない。特に活性化したParkinがミトコンドリア上で相互作用してユビキチン化する基質を大規模に明らかにするためには、高度なプロテオーム解析技術が必須である。そこで本年度は、以下の方法によってParkinとの相互作用因子を大規模に同定することを試みた。まず、GFPと融合したParkinを安定発現するHeLa細胞と親株のHeLa細胞に対し、無処理またはミトコンドリアの膜電位を低下させる脱共役剤で処理した後、低濃度のホルムアルデヒドを添加してParkinを含む複合体をクロスリンクした。その後SDSを含む可溶化能の高いバッファーで細胞抽出液を調製し、アルパカ由来GFP結合nanobodyを固定化したビーズであるGFP-Trap磁気アガローズビーズで免疫沈降した。沈降物をよく洗浄した後、ビーズ上で直接トリプシン消化を行い、消化ペプチドをLC-MS/MSで測定した。ラベルフリー定量解析の結果、親株細胞よりもGFP-Parkin発現細胞で有意に増加したタンパク質を291種類、ミトコンドリアの損傷によって増加したタンパク質を110種類同定することができた。両者に共通する61種類はミトコンドリアの損傷時にParkinと相互作用するタンパク質であると考えられ、それらの細胞内局在についてエンリッチメント解析を行った結果、ミトコンドリアに局在するタンパク質が多く含まれることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Parkinとの相互作用タンパク質を大規模に同定するために、低濃度ホルムアルデヒドによる複合体のクロスリンク、磁気アガロースビーズを用いた夾雑物の少ない免疫沈降、ビーズ上トリプシン消化と抗体由来消化ペプチドの少ないnanobodyの活用、および質量分析計を用いたラベルフリー定量解析のシステムを確立することができた。その結果、ミトコンドリアの損傷時にParkinと相互作用するタンパク質候補を61種類同定・定量することに成功した。この中には、ミトコンドリア外膜に局在する電位依存性陰イオンチャンネルタンパク質であるVDACなどが含まれていた。このnanobodyを用いた免疫沈降-質量分析による相互作用タンパク質の大規模同定法は他の標的タンパク質にも適用可能な汎用性の高い方法である。
|
今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリアの損傷によってParkinと相互作用するミトコンドリアタンパク質を多数同定することができたため、これらがParkinによってユビキチン化されるか、またミトコンドリアの損傷に伴うParkinの活性化・局在変化などにおける役割やミトコンドリアのオートファジーへの影響を明らかにする。またクロスリンク質量分析法(XL-MS)によって、Parkinとの相互作用部位を同定する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
nanobodyを用いた免疫沈降-質量分析法によってParkinとの相互作用因子を大規模に同定する実験は、条件検討のために繰り返し行う予定であった。しかしながら、2度目の実験で信頼性の高い結果が得られたため、当該実験にかかる費用が当初予定よりも少なくなった。次年度に持ち越した研究費は新たに同定したParkinとの相互作用因子の機能解析の費用に充当する予定であり、これらの解析を担当する技術職員の人件費に使用することを計画している。
|