家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるセリン/スレオニンキナーゼPINK1とユビキチン連結酵素Parkinが協調して損傷ミトコンドリアをオートファジーによって特異的に除去する分子機構の概要が最近明らかになった。しかしながら、従来の細胞生物学や分子生物学を基盤とする研究からは、その全体像を理解する上で十分な知見が得られていない。特に損傷ミトコンドリアの外膜上で安定化し蓄積したPINK1が形成する複合体の構成因子を大規模に明らかにするためには、高度なプロテオーム解析技術が必須である。そこで本年度は、近接依存性ビオチン標識法の1つであるBAR (biotinylation by antibody recognition)法を用いて、PINK1との相互作用因子を網羅的に同定することを試みた。Flagタグ付きPINK1を安定発現するHeLa細胞に対してミトコンドリアの膜電位を消失させるバリノマイシンで処理した後、抗Flagマウス抗体およびHRP標識抗マウスIgG抗体とインキュベートした。そしてビオチンフェノールの存在下でH2O2を加えてビオチン標識を行った。ビオチン化タンパク質をストレプトアビジンビーズで精製し、ビーズ上でトリプシン消化してDDA (data-dependent acquisition)法による質量分析を行ったところ、1754種類のタンパク質が定量された。この中でバリノマイシン処理で有意に増加するタンパク質にはPINK1自身だけでなく、TOM20やTIM23などが含まれていたため、BAR法は有用であると考えられた。本研究によって、IP-MS法およびBAR法などのプロテオーム解析技術を確立することにより、PINK1およびParkinの新たな相互作用因子の候補を多数同定することができた。そして新たな候補の一部(TIM23など)のミトコンドリアでの機能を明らかにした。
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