研究課題/領域番号 |
20K06629
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
山本 美紀 (日野美紀) 立教大学, 理学部, 助教 (40301783)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核ラミナ / GPIアンカー蛋白質 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
本研究の背景として、GPIアンカー生合成酵素の一つであるPIGBは、ショウジョウバエでは核内膜の裏打ち蛋白質のラミンと結合して核膜に局在すること、またPIGB変異体の骨格筋核では、通常均一に分布するラミンが不均一分布を示すことから、PIGBは核ラミナの恒常性維持に関与していると考えられた。そこで本研究では、PIGB変異体での①核膜蛋白質の局在や遺伝子発現の変化など、分子レベルの解析を行う。②骨格筋の異常を明らかにする。③この役割にGPIアンカー蛋白質が関与しているかどうかを明らかにすることを目的としている。 今年度は、①に関して、既にラミン蛋白質と核膜孔複合体の局在異常が観察されていたが、これらは正常な核では互いに接しながら均等に分布するのに対し、PIGB変異体では核膜孔複合体は、ラミンから外れてお互いが排他的に分布することを見出した。この時、蛋白量は野生型と変異体で変化しておらず、核ラミナの構成成分の局在のみが大きく損なわれていると考えられた。また野生型と変異体の骨格筋での遺伝子発現変化を検討した。その結果、変異体で発現が増加した1024遺伝子、発現が減少した628遺伝子が検出された。発現が変化した遺伝子の中には、これまでに骨格筋の分化や維持に関わるhowやzipperといった分子も含まれていた。 また③に関しては、PIGBのGPI合成に関わる糖転移酵素としての活性中心部分に変異を導入し、GPI合成活性を持たないPIGBを発現するハエを作成した(以下、ΔactPIGBとする)。PIGB変異体にΔactPIGBを発現させたところ、変異体で認められていた核ラミンの不均一な分布が元に戻ることが明らかになった。このことは、PIGB変異体での核ラミナの恒常性破綻は、GPIアンカー蛋白質とは無関係に生じていることを強く示唆しており、PIGBが核膜で新しい機能を有していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染拡大による緊急事態宣言により、研究活動が制限された。また試薬や消耗品器具の納品のめどが立たず、予定していた実験を実施することができなかった。トランスジェニックハエの作成は海外の業者に委託しているが、こちらもコロナにより業務が滞り、研究の円滑な実施に支障をきたした。
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今後の研究の推進方策 |
①次年度は、引き続いて核膜蛋白質の分布異常について検討を行う。また核膜の異常をさらに詳細に検討することを予定している。具体的には超高解像度顕微鏡による核膜の観察や、ラミンの分布が不均一になったことによって、核膜の強度に変化が生じているのではないかと考えられ、測定を試みる予定である。 ②クロマチン状態の観察については、当初の予定通り、クロマチンの修飾状態を検出する抗体を用いて検討を行う予定である。また「先端ゲノム支援」の支援を受け、Dam-seq法によってラミンに結合しているクロマチン領域を検出し、クロマチンの構造変化を検討する。 ③遺伝子発現変化については、前年度に検出した遺伝子発現変化をqPCRによって検証するとともに、その変化が筋細胞の機能に影響を与えているかどうか、検討を行う。また発現の変化が、骨格筋の核でPIGBが欠失した結果なのか、それとも別の組織でPIGBが欠失した結果の影響を受けた結果であるか、見極める実験を行う。骨格筋の核でPIGBが欠失した結果、発現変化した遺伝子を同定し、②で行うクロマチン構造変化と相関しているかどうか、解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの感染拡大により、研究活動が制限されたため、次年度使用額が生じた。 前年度に入手できなかった試薬や、作成することができなかったトランスジェニックハエを用いて、遅れていた研究を取り戻す予定である。また本来行う予定であった、受託解析にも助成金を使用する予定である。
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