本研究の背景として、GPIアンカー生合成酵素の一つであるPIGBは、ショウジョウバエでは核内膜の裏打ち蛋白質のラミンと結合して核膜に局在すること、またPIGB変異体の骨格筋核では、通常均一に分布するラミンが不均一分布を示すことから、PIGBは核ラミナの恒常性維持に関与していると考えられた。そこで本研究では、PIGB変異体での①核膜蛋白質の局在や遺伝子発現の変化など、分子レベルの解析を行う。②骨格筋の異常を明らかにする。③この役割にGPIアンカー蛋白質が関与しているかどうかを明らかにすることを目的としている。 今年度は、①に関して、核膜の電子顕微鏡観察を行い、野生型とPIGB変異体では核膜の厚さが変化していることを明らかにした。また国立遺伝学研究所島本教授との共同研究で、核膜の強度の測定を試みた。その結果、PIGB変異体では核膜が柔らかくなっていることが示された。核膜は核内のクロマチンを保護する役割を担っており、核膜の構成の変化は核機能に多大なる影響を与えている可能性が示唆された。また前年度から解析している、ラミンとクロマチンが結合している領域の変化と、実際の遺伝子発現変化の相関を検討した。骨格筋の構成因子や発生に関わる遺伝子に着目して解析した結果、変異体で新たにラミンと結合するようになったクロマチン領域に含まれる遺伝子の中には、発現が低下するものがあることが明らかになった。一般にラミンと結合するクロマチン領域の遺伝子は、発現が抑制されていることが知られており、PIGB変異体でラミンの分布が不均一になった結果→ラミンと結合するクロマチン領域が変化→そこに含まれる遺伝子発現が低下→骨格筋の損傷が起こっている可能性が強く示唆された。 3年間の成果をもとに論文を作成して、Journal of Cell Biology誌に投稿し、現在Revise実験を行っている。
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