研究課題/領域番号 |
20K06630
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
豊田 雄介 久留米大学, 分子生命科学研究所, 講師 (10587653)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低濃度グルコース / 分裂酵母 / 窒素源枯渇 / 糖輸送体 / ユビキチン化 / TORC2経路 / アレスチン |
研究実績の概要 |
栄養環境の変化に対する真核細胞の応答においてTORC1、TORC2シグナル伝達経路は重要な役割を果たす。分裂酵母が低濃度グルコース環境で増殖するためには糖輸送体Ght5とTORC2経路が必要である。TORC2経路がGht5の細胞表面局在を保障する仕組みは不明であったが、前年度の我々の結果によりTORC2経路はαアレスチンAly3を介したGht5のユビキチン化を阻害することによってGht5の表面局在を保障すること、そしてTORC2経路によるGht5の表面局在の維持は窒素源(アミノ酸またはアンモニウム塩)存在下でのみ起こることを明らかにし、当該年度にこれらの結果をJournal of Cell Science誌に発表した。 次に、TORC2経路がAly3を抑制するしくみをより詳細に理解することを目的として実験を行った。TORC2経路のAkt様セリン/スレオニンタンパクキナーゼであるGad8がAly3をリン酸化すると仮定し、「Ght5の表面局在に重要でありなおかつTORC2経路(Gad8)によりリン酸化されるセリン/スレオニン残基」を同定しようとした。そのようなセリン/スレオニン残基の候補としてAktキナーゼ標的のコンセンサス配列と唯一合致するAly3 Ser460を見出し、TORC2経路によるAly3 Ser460のリン酸化を、作製した特異的なリン酸化抗体を用いて検討した。TORC2経路変異細胞においてSer460のリン酸化は野生型細胞と比較してある程度減少したものの、予想に反して消失しなかった。TORC2経路以外のキナーゼがAly3 Ser460のリン酸化に機能しているのかもしれない。また、Aly3にはセリン/スレオニン残基が18あるため、Ser460以外の残基がGht5の表面局在制御のために重要かもしれない。これらの問題点を踏まえて、今後の研究を推進する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、真核細胞が低濃度グルコース環境に応答する分子機構をTORC1、TORC2経路を中心として理解することである。この目的の主要な部分は、TORC2経路が糖輸送体Ght5の細胞表面局在を保障する分子機構のモデルを学術誌へ報告したことを以て、概ね達成されたと言える。このように本研究は順調に進展したため、TORC2経路がAly3をリン酸化を通じて抑制する詳細なしくみという新たな問題点が現れてきて現在取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、TORC2経路がアレスチンAly3を抑制することで糖輸送体Ght5の表面局在を保障する詳細な仕組みの解明という、これまでに我々が得た知見から発展した新たな問題点の解明を目標とする。この目標を達成するための重要な要素として、TORC2経路(Gad8キナーゼ)がリン酸化を通じてAly3を抑制するものと仮定し、Ght5の表面局在制御に機能しなおかつTORC2経路がリン酸化するAly3の部位を特定する。現在のところ、そのようなリン酸化サイトの特定に至っていない。このためには、Aly3がリン酸化される条件とリン酸化されない条件(これらの条件は、本研究のこれまでの成果から、窒素源含有環境と窒素源枯渇環境がそれぞれ対応すると予想される)でそれぞれ培養した分裂酵母からAly3をアフィニティー精製して質量分析によってリン酸化部位を特定するなどの異なるアプローチが重要だと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に計画した実験が効率的に実施できたこと、論文掲載のための費用が今回の掲載誌ではかからなかったこと、以前に購入していた試薬類を使用したこと、そしてコロナウイルス感染拡大抑制のため労働時間を部分的に削減する必要があったこと等によって、次年度使用額が生じました。当該助成金は本研究に必要な機器や比較的高額の消耗品の購入、そして質量分析等の研究機関で実施し難い実験を委託するために、主に使用する予定です。
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