真核細胞の栄養環境の変化に対する応答において、TORC1、TORC2シグナル伝達経路は重要な役割を果たす。分裂酵母細胞が低濃度グルコース(0.1%以下)環境で増殖するためには六炭糖輸送体Ght5とTORC2経路が必要であることを我々は報告してきた。TORC2経路はGht5の表面局在に必要であるがその仕組みは分かっていなかった。このため我々はTORC2経路にあるAkt様キナーゼGad8の欠損変異体のうち低濃度グルコース環境で増殖し、なおかつGht5の表面局在が回復する変異株をスクリーニングし、それらが持つ遺伝子変異を同定した。その結果、(1)TORC1経路を抑制する遺伝子群、(2)表面タンパク質の液胞輸送に機能する遺伝子群の変異が見出された。これらのうち、後者に属する新規アレスチンAly3/SPCC584.15cの欠損を持つgad8変異体では、Ght5の表面局在および低濃度グルコース環境での増殖能が回復した。アレスチンは一般に、E3ユビキチンリガーゼによる細胞膜タンパク質のユビキチン化を促進し、その液胞(リソソーム)への選択輸送を促進すると考えられている。そこで、Ght5のユビキチン化を検出したところ、野生型細胞と比較して、TORC2経路欠損変異細胞ではユビキチン化Ght5が増量していた。この増量はAly3に依存していたことから、TORC2経路はAly3依存的なGht5のユビキチン化を阻害することによってGht5の表面局在を保障することを明らかにした。次に、TORC2経路(特にGad8)がリン酸化を通じてAly3を阻害する可能性を検討した。報告されている18カ所すべてのリン酸化部位をアラニン置換したAly3(ST18A)を発現する細胞は低濃度グルコース環境で増殖せず、Ght5は液胞にのみ観察されたので、Aly3はリン酸化により機能調節されている可能性が示唆された。
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