本研究は、繊毛虫テトラヒメナの大核と小核に見られる機能の異なる核膜孔複合体(NPC)について、両者の構造を比較し、さらにそれらが一般的な真核細胞のNPCとどう異なるのかを明らかにすることによって、NPCが取り得る構造的バリエーションと、その機能的な意味について理解することを目指した。NPCの細胞質側と核内側に対称的に存在するouter ring構造を構成する保存されたヌクレオポリンNup160、Nup133、Nup107、Nup96、Nup85、およびSeh1は、小核NPCでは細胞質側と核内側の両側に配置するが、大核NPCでは細胞質側には見られず、核内側だけに配置することを昨年度の免疫電子顕微鏡観察で明らかにした。今年度は、テトラヒメナ固有のヌクレオポリンであるNup185について、GFP標識したものの局在を蛍光観察法ならびに免疫電子顕微鏡法で調べた。その結果、GFPの強い蛍光は大核の核膜に見られ、大核NPCでは、Nup185は一般的なouter ringの構成成分が存在しない細胞質側領域に配置しており、核内側には配置していないことがわかった。このことは、Nup185が一般的なouter ringの構成成分に替わって、大核NPCの細胞質側領域の構造を形づくる主要成分であることを示唆している。このように本年度の研究によって、大核と小核のNPCは細胞質側の構造が決定的に異なっていること、また、両者の構造を他のモデル生物のNPCと比較した場合、より普遍的であるのは小核NPCであり、大核NPCはこれまでに知られていないユニークな細胞質側構造をもつ特殊な形状のNPCであることが明らかになった。
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