本研究では、哺乳動物培養細胞、出芽酵母を用い、細胞内リン脂質恒常性維持機構とその生理的意義について解析を試み、以下の成果を得た。 1)哺乳動物細胞ホスファチジルセリン(PS)合成酵素PSS1は小胞体に局在する複数回膜貫通タンパク質であるが、その正確な膜配向性は明らかではなかった。研究代表者は、PSS1の膜配向性の解析を行い、PSS1がN末端、C末端をサイトゾル側に配向した10回膜貫通タンパク質であることを明らかにした。また、PSS1は細胞内のPSの量に応じて活性制御されることが知られており、この活性制御に必要なアミノ酸残基がPSS1全長に渡って散在することが知られていたが、今回明らかになったPSS1膜配向性から、活性制御に必要なアミノ酸残基がサイトゾル側に存在することが明らかになった。このことから、PSS1は小胞体膜のサイトゾル側のPSを認識し、これに応じて活性を制御していると考えられる。 2)PS輸送体Ups2-Mdm35は、ミトコンドリアにおけるホスファチジルエタノールアミン(PE)の合成に寄与している。代表者は、出芽酵母においての機能が、グルコース枯渇時に活性化され、ミトコンドリアにおけるPE合成を促進することを見出している。本研究では、Ups2-Mdm35依存的に合成されるPEが、グルコース枯渇時において細胞内エネルギーセンサーAMPK/Snf1の活性を制御しており、Ups2欠損酵母ではグルコース枯渇時においてAMPK/Snf1が過剰活性化し、静止期細胞への分化が促進することを見出した。 3)また、最終年度は、新たに出芽酵母PS脱炭酸酵素Psd1の細胞内局在と存在量制御機構について解析し、小胞体局在型Psd1はミトコンドリア局在型に比べてPSのPEへの変換効率が高いこと、小胞体型Psd1の存在量が細胞環境に応じて多層的に制御されていることを見出した。
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