研究課題
ストレス応答機構の1つであるp62-Keap1-Nrf2経路は、p62/SQSTM1 (以下、p62とする)のリン酸化に依存して活性化される。本経路は肝がん細胞株や肝がん患者組織では恒常的活性化状態にあり、がん細胞の増殖に有利な代謝リプログラミングや薬剤耐性能の獲得に寄与している。すなわち、p62-Keap1-Nrf2経路が亢進しているがんでは、p62の発現抑制、リン酸化阻害、ないしは代謝促進を介したp62の不活化が有効な抗がん治療となることが期待される。本年度は、p62顆粒がオートファゴソーム形成の足場となり、オートファゴソームに局在するタンパク質との結合を介して選択的に分解されること。さらに、p62顆粒は酸化ストレス応答を制御する液滴であることを明らかにした (Nat Commun. 12:16. 2021) 。さらに、ALSやFTLDなどの疾患に関連したp62変異体では、p62の液滴形成や数、サイズに変化はないものの、p62液滴の流動性が低下していることを発見した。p62液滴の機能制御因子の探索において、脱リン酸化酵素をsiRNAスクリーニングにより同定。そのノックアウト株を作製し、ドキシサイクリンによる発現誘導システムの入れ戻し実験により、同定した脱リン酸化酵素がp62の責任ホスファターゼであることを確認した。この結果を支持するように、同定されたp62の脱リン酸化酵素は、細胞内に生じるp62液滴に局在した。さらに同定した脱リン酸化酵素がNrf2活性化に及ぼす影響についてヒト肝細胞がん株を用いて調査したところ、脱リン酸化酵素の発現に応じて足場非依存的増殖の抑制、すなわちNrf2の不活化が見られた。現在、Nrf2の標的である抗酸化遺伝子群の発現解析、マウスへの異種移植試験による脱リン酸化酵素の病態生理機能解析を予定している。
2: おおむね順調に進展している
p62液滴が選択的オートファジーの標的となること、その不全がNrf2を介した酸化ストレス応答を活性化させることを論文発表した (Nat Commun. 12:16. 2021) 。p62の疾患関連変異体ではp62の液滴の性質が変わることを発見しており、現在、投稿論文を作成中である。p62の脱リン酸化酵素を新規に同定しており、今後、病態生理機能を明らかにした上で、論文発表を予定している。
p62の疾患関連変異に関する研究では、p62液滴の流動性変化において相互作用タンパクのLC3やKeap1の役割をin vitro実験により明らかにしていく。また、p62液滴の形態学的変化についても解析する。p62の脱リン酸化酵素に関する研究では、p62-Keap1-Nrf2経路の抑制作用を明らかにするためNrf2の標的遺伝子群の発現解析、およびリン酸化p62に依存したNrf2活性型がん細胞をヌードマウスへ異種移植し、脱リン酸化酵素の発現をOnまたはOffさせた状況下での増殖試験を実施する予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Cold Spring Harb Mol Case Stud.
巻: mcs ページ: a005827
10.1101/mcs.a005827
Nat Commun.
巻: 12 ページ: 16
10.1038/s41467-020-20185-1.
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000252.000021495.html