研究課題/領域番号 |
20K06644
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
一村 義信 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (80400993)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | p62 / KEAP1-NRF2経路 / 選択的オートファジー / 液滴 / 筋萎縮性側索硬化症(ALS) / 前頭側頭骨変性症(FTD) / リン酸化 / キナーゼ |
研究実績の概要 |
SQSTM1/p62(以降、p62とする)は、ストレス誘導性のタンパク質であり、ユビキチン化タンパク質との相互作用を経て液滴を形成する。p62液滴は349番目のセリン残基がリン酸化され、KEAP1と強く結合する。その結果、KEAP1はp62液滴に隔離され、KEAP1との相互作用から逃れたNRF2はユビキチン-プロテアソームによる分解を免れ、核内へ移行、生体防御遺伝子群の発現を活性化する(p62-KEAP1-NRF2経路)。このp62-KEAP1-NRF2経路は、がん細胞の増殖に有利な代謝リプログラミングや薬剤耐性能の獲得に寄与している。すなわち、p62-KEAP1-NRF2経路が亢進しているがんでは、p62のリン酸化阻害が有効な抗がん治療となることが期待される。今年度は、ULK1およびULK2がp62のSer349のリン酸化に関与し、NRF2の活性化を誘導するキナーゼであることを明らかにした。ULK1およびULK2を阻害すると、p62液滴の形成だけでなく、p62を介したNRF2活性化も抑制された。本結果については現在、論文作成中である。 さらに今年度は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭骨変性症(FTD)患者由来の点変異関してp62のKEAP1相互作用領域(KIR)とLC3相互作用領域(LIR)の変異体に焦点をあて解析した。その結果、p62変異体は液滴を形成する能力はあるものの、液滴内部の流動性低下が全ての変異体で認められた。以上の結果は、p62変異によるALS/FTDの主因は、少なくとも選択的オートファジーや抗酸化ストレス応答の障害によるものではなく、むしろ他のALS/FTD疾患関連タンパク質と同様に、p62液滴の質的変化に起因することを示していた。以上の結果については論文報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p62は液-液相分離を起こし、p62-bodyと呼ばれる可逆的なゲル状構造体を形成する。p62-bodyやマロリーデンボディ(MDB)はSer349がリン酸化されたp62を含んでおり、p62-KEAP1-NRF2経路の活性化により転写因子NRF2依存的な代謝のリプログラミングを引き起こし、肝細胞がん細胞に抗がん剤耐性を与えることが知られている。しかしながら、そのリン酸化制御機構は不明である。今回、ULK1およびULK2がp62のSer349のリン酸化に関与し、NRF2の活性化を誘導する新規キナーゼであることを明らかにした。高速原子間力顕微鏡により、ULK1は二量体化したp62と直接相互作用してp62をリン酸化していることが判明した。細胞内では、ULK1はFIP200に依存しない形でp62-bodyに局在している。ULK1およびULK2を阻害すると、p62-bodyの形成だけでなく、p62を介したNRF2活性化も抑制される。興味深いことに、NASH由来肝細胞癌では他の肝細胞癌に比べてp62リン酸化体が多く、これはULK1またはULK2の発現量と相関していた。S349リン酸化型p62を高発現しているHuh-1細胞は、ULK1および2阻害剤であるMRT68921の投与により抗癌剤であるソラフェニブに感受性を示すようになった。以上の結果は、ULK1とULK2によるp62の適切かつ連続的なリン酸化が、p62-bodyの形成と機能の両方を制御していることを示しており、p62リン酸化の阻害が肝細胞癌、特にNASH由来肝細胞癌の創薬ターゲットになることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
KEAP1をp62本体から強制的に切り離すとp62のSer349が脱リン酸化の促進が見られる。一方で、p62のリン酸化ミミックであるp62S349EではKEAP1と強い結合状態を維持する結果、液-液相分離が抑制されることが判明している。先の脱リン酸化に関しては、siRNAライブラリーを用いたスクリーニングにより、脱リン酸化酵素とその調節サブユニットを同定している。調節サブユニットのノックアウト株を作製し、ドキシサイクリンによる発現誘導システムの入れ戻し実験により、同定した脱リン酸化酵素がp62の責任ホスファターゼであることも確認している。さらに、同定されたp62の脱リン酸化酵素は、細胞内に生じるp62ボディに局在していた。今後、脱リン酸化酵素のp62-bodyへの局在の分子機構について、相互作用因子の同定を進め明らかにする予定である。また、KEAP1との結合が脱リン酸化を抑制するメカニズムについても、in vitroホスファターゼアッセイなどのツールを用いて検証を進める。p62とKEAP1の強い結合状態が液-液相分離を抑制するメカニズムについては、p62のUBAドメインのSer403, Ser407のリン酸化 → UBAドメインへのユビキチン化タンパクの結合 → 液-液相分離 →p62のKIRのS349のリン酸化 → KEAP1の結合→ p62ボディの形成といった反応の秩序の重要性を想定している。今後、p62ノックアウト細胞へp62リン酸化ミミックやリン酸化不能変異体を発現させ、生じるp62ボディの性状やKEAP1局在について解析を進める予定である。
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