研究課題/領域番号 |
20K06645
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
戸谷 美夏 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (80455360)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 上皮細胞 / 微小管編成 / 腎臓 / 嚢胞腎 / 微小管マイナス端 / CAMSAP3 / ノックアウトマウス / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
上皮細胞で微小管の配向をつかさどる、微小管マイナス端結合タンパク質CAMSAP3について、その機能欠損マウス(Camsap3変異マウス)腎臓に多発性の嚢胞を見出し、解析を進めている。昨年度までの研究から、Camsap3変異マウスで形成される嚢胞腎は、これまで嚢胞腎形成の原因として広く知られていた一次繊毛の形成異常とは異なる、新たなしくみで形成されることがわかった。すなわち、CAMSAP3タンパク質の機能が欠損すると、腎上皮細胞内の微小管編成が乱れることにより細胞の形態維持に支障を来し、その結果、メカニカルな力(原尿圧を推測)に抵抗できなくなった細胞が引き延ばされ、尿細管が拡張することで、嚢胞を形成すると推測された。 今年度は、これらの結果をまとめ、論文に発表した。論文投稿から改訂の過程で、さらに画像解析を行うことにより、Camsap3変異マウスでは、拡張した尿細管に加えて、明らかな拡張を認めない近位尿細管においても、メカノセンサーチャネルであるPIEZO1の核内局在が検出され、活性化が示唆された。この結果は、Camsap3変異マウスでは、尿細管が拡張する以前から、細胞がメカノストレスを感知して遺伝子発現に変化が生じる可能性を示唆し、現在進めている遺伝子発現解析における微小領域(110μmφ)の選定基準にさらなる視点を加えた。今年度はさらに、腎組織の微小領域における遺伝子発現解析に向けて、試料作製条件の検討をおこなった。腎組織の微細構造を保持しながら、遺伝子発現解析に耐える品質のRNAが得られる試料を目指して、固定条件、染色条件等を検討した。その結果、固定後パラフィン包埋からHE染色を行う方法、無固定組織を凍結包埋からHE染色する方法ともに、細胞形態を指標にした微小領域の選択・採取が可能で、かつ、発現解析に適応する品質のRNA抽出が可能になった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAMSAP3の機能欠損マウスにおける嚢胞腎形成のしくみについて、論文にまとめ発表した。腎組織から微小領域を採取しての遺伝子発現解析に適応する試料作製条件の検討が完了し、遺伝子発現解析の準備が整った。予備的な結果として、採取した微小領域の組織試料から抽出されたRNAについて、遺伝子発現解析が可能な品質であることが確認できた(創薬等先端技術支援プラットフォーム (BINDS) を窓口として、早大生命医科学科竹山研究室の支援を受けて実施)。
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今後の研究の推進方策 |
試料創薬等先端技術支援プラットフォーム (BINDS) を窓口とし、早大生命医科学科竹山研究室の支援を得て、以下の実験をすすめる。 1. パイロット実験ですでに採取した腎組織微小領域から抽出されたRNAを用いて、シークエンスを行い、発現遺伝子に関するデータを得る。得られるデータについて、野生型とCamsap3変異マウス、尿細管の領域ごとの比較解析の方法を検討する。 2. 野生型、Camsap3変異マウスそれぞれの腎組織から、近位尿細管(拡張のある・なし)、集合管、糸球体の微小領域を採取し、RNAを抽出して、シークエンスを行い、得られたデータを用いて、発現解析をおこなう。 3. 発現パターンの相違から、Camsap3変異マウスで嚢胞形成に関わる因子を抽出し、組織化学実験も組み合わせて、嚢胞腎形成の分子機構、上皮微小管が関わる遺伝子発現制御の分子機構について、考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Camsap3変異マウス(Camsap3-dcマウス、Camsap3KOマウス)は、繁殖を行いながら、目的の週齢のマウスを得て実験を進めている。実験は継続して行っており、限られたスペースで繁殖を行っている。実験に用いることができる変異マウスの数は、交配の確率、得られる仔マウスの遺伝子型などの影響をうけるため、作製するサンプルの数や時期が前後し、予算の使用時期にも前後が生じる。このため、マウスの飼育管理費用、組織化学試料作成のための試薬、ミクロトームなど学内設備使用料など、継続使用している費用が繰越となった。さらに、今年度は、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言による施設使用制限により、実験の実施への影響も受けた。次年度に前述の項目で、使用の予定。
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