研究実績の概要 |
上皮微小管編成を司る微小管結合タンパク質Camsap3の変異マウスの腎臓に、多発性の嚢胞が形成されることを見出し解析を進めている。Camsap3変異マウス嚢胞腎では、尿細管の特定の領域(近位尿細管)の微小管編成が乱れ、尿細管が拡張する。拡張の程度により、組織切片で、大きさの異なる嚢胞構造が観察される。昨年度までに、野生型(WT)、Camsap3ノックアウト(KO)マウス、および、ヘテロマウスから、切片上で細胞レベルの形態を識別して微小領域 (110μmφ)を採取し、近位尿細管(PT)、集合管(CD)、糸球体(Glo)それぞれの領域から、遺伝子発現プロファイルを得た。Camsap3KOマウスにおいては、尿細管拡張の度合いも識別し、拡張なし(PT)、拡張あり(PTSC: PT Small Cyst)、拡張かつ上皮細胞の扁平化あり (PTLC: PT Large Cyst)各領域の情報も得た。 今年度は、得られたビッグデータの比較解析を進め、以下のことがわかった。 1) 各サンプルにおいて、PT, CD, Gloの領域に発現することが知られるマーカーとなる遺伝子発現の高低は、矛盾なく検出された。 2) WT, KO, ヘテロマウス間で、PT, CD, Glo各領域に発現する遺伝子を比較した結果、Camsap3 KOのPTにおいて、WT, ヘテロマウスと比べて顕著な発現変動がみられた。GloではCamsap3 KOによる発現変動はほぼみられず、CDでは僅かな変動が見られた。 3) Camsap3 KOにおいて、PT, PTSC, PTLCを比較した結果、尿細管の拡張度合いによって発現変動する遺伝子群がとらえられた。 今回の解析から、複雑な構造をもつ腎臓において、組織・細胞形態を指標に採取した微小領域ごとの遺伝子発現変動、さらに、嚢胞形成(組織・細胞の形態変化)に連動した変動がとらえられた。
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